私たちが「孤独を埋めてくれるAI」にのめり込む日 メンタル不調に寄り添う「AIセラピスト」も登場

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アメリカでは、AIチャットボットの言葉に心を射止められ、疑似恋愛の状態になる現象を「Bot Love」と呼び、その代表格としてチャットボットコンパニオンの「Replika(レプリカ)」が取り上げられることが多い。

最近、性的な会話などができないように仕様変更されたことがユーザーの反感を買って話題にもなった。日本においても、欧米諸国と同じく孤立や孤独が蔓延する状況下では、かえってチャットボットへの依存が高まる可能性がある。

問題点は2つ

問題点は主に2つだ。個人的な課題の解消に当たって一定の効果が認められており、特に助けを求めている人にとっては何もしないよりはいい反面、AIとのコミュニケーションに過度にのめり込む恐れがある。そうなると、かえってリアルな人間関係や家族形成への動機付けが弱まることが危惧される。

英ガーディアン紙の記事で、進化心理学者のロビン・ダンバーは、「AIチャットボットを恋愛詐欺と比較し、インターネット上だけで交流する偽の人間関係のために弱者が狙われること」を問題視した(Laurie Clarke/‘I learned to love the bot’: meet the chatbots that want to be your best friend/2023年3月19日/The Guardian)。ソーシャルメディアが仕掛けるアテンション・エコノミー(注目経済)のように、ユーザーはチャットボットの巧みな感情操作のとりこになってしまうのだ。

もう1つは、格差化の進展である。リアルな人間関係に恵まれている人々は、良質のAIチャットボットでメンタルや認知を強化することでさらなる人間力の向上が図れるが、そうではない人々は、充実した関係性の代替としてチャットボットを使わざるをえない状況が一般化するかもしれない。なぜなら、生身の人間の場合と違って、チャットボットは自分のことを否定せず、適切なアドバイスと心地のよいレスポンスで、即効性が期待できるからだ。

実際、ロボットやCGキャラクターなどの人工的な存在から褒められても、運動技能の習得がより効率的に促されることを科学的に証明した論文もある(Two is better than one: Social rewards from two agents enhance offline improvements in motor skills more than single agent/2020年11月4日/PLOS ONE)。現代社会のように時間に追われ、友人や恋人を作る余裕がない、あるいは人間関係が面倒くさくなってしまった人々にとって朗報になることは否定できない。

これは構造的に「エンハンスメント」(Human enhancement)の問題と似ており、非常に好ましからざる未来のシナリオがありうる。

エンハンスメントとは、直訳すれば「人間の強化」のことであり、病気の治療や予防以外の目的を持つ医療技術の使用を指している。病気の治療や予防ですでに効果が実証済みの技術を健常者の機能強化のために転用するのである。薬物による記憶力や集中力の強化、気分の改善などが身近でわかりやすい例だ。

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