日野と三菱ふそうが経営統合へ向かう2つの要因 親会社のトヨタとダイムラーがCASE技術で協業

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トヨタにとっても「渡りに船」だ。1966年に日野と提携、2001年に子会社化してグループの商用車戦略を任せてきた。しかし、乗用車と商用車のシナジーは期待したようには出せないまま。不正の発覚で、歴代社長を派遣してきた親会社・トヨタの責任を問われたうえ、グループの信頼も傷ついた。

不正の洗い出しや社風改革に関与を強めたものの、商用車と乗用車の違いから思ったようには進まない。この日の会見でトヨタの佐藤恒治社長は「商用車ビジネスについては、われわれが日野を支える限界もある」と率直に語っていた。

上場子会社という中途半端な体制のまま日野を立て直すことは難しいが、完全子会社化で全責任を背負い込む選択肢は取れない。といって、救済相手を見つけるのも難しい。商用車国内トップのいすゞ自動車にはトヨタが5%出資するなど関係を持つが、1位と2位の統合は競争法上からも不可能だ。

加えて、日野はアメリカでもエンジン認証で法規制違反の疑いで司法省の調査が続いており、制裁金を課される可能性がある。アメリカとオーストラリアでは集団訴訟も起こされている。リスクが読み切れない状況が続く中、ダイムラーの提案は“前向き”に日野へのコミットを減らすことができる妙手だった。

水素技術の協業はWin-Win

カーボンニュートラルの圧力が強まる中、重い荷物を運ぶ商用車では電池の搭載量が多くなりすぎるためEV(電気自動車)では対応しきれない。その点、タンク容量を増やしやすく、充填時間も短くて済む水素は、商用車の脱炭素化には必須の技術と目されている。「自動車の将来は水素にある。脱炭素への重要なソリューションだ」(ダウムCEO)。

トヨタはFCV(燃料電池車)の関連特許では断トツで、2014年には世界に先駆けて量産FCVの「MIRAI」を発売している。また、水素エンジン車を開発してレースの場で鍛え上げている。まさに水素のトップランナー。グループで早くからFCVに力を注いできたダイムラーから見てもトヨタと組むことは魅力的だ。

トヨタはFCVで世界に先駆けただけでなく、水素エンジンをレースの場で鍛えている(編集部撮影)

トヨタにとっても水素での協業はメリットが多い。FCVは燃料電池システムの技術的・コスト的な難しさに加えて、水素インフラ構築のハードルがとてつもなく高い。トヨタは2014年に燃料電池システムの特許を開放したが、追随者はほとんど現れずFCVの普及は進んでいない。FCVの普及が進まないため、水素インフラの整備も進まない悪循環。

商用車世界トップ級のダイムラーが商用車の水素シフトを進めてくれれば強力な援軍になる。運行ルートが限られる商用車向けなら水素インフラの整備も進みやすい。

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