たしかに自制心は、良くも悪くも、道徳的感覚を増幅させる。
ある研究で、学生たちは自制心の訓練に2週間を費やした。利き手でないほうの手を使ってドアを開けるなど、自制心を高めることが示されている、シンプルな介入を日常生活に強制的に取り入れたのだ。そして、アンケートで道義的責任感を測定した。学生たちはラボに呼ばれ、20匹のコオロギの幼虫が入った瓶と、コーヒーミルを改造した「駆除機」を渡された。
タスクはシンプル。幼虫を「駆除機」に投入するだけだ(実際には、コオロギの幼虫は秘密の出口からこっそり脱出できるようにしてあった)。自制心を高める訓練を受けた、道義的責任感の強い人は、先の訓練を受けなかった人に比べて、この実験の指示に抵抗する確率が高かった。
一方、道義心の低い学生には逆の現象が起きた。自制心の訓練を受けた学生は、受けなかった学生に比べて、約50%も多くコオロギの幼虫を「駆除機」に投入したのだ。この結果は、自制心が高まったことにより、従順になったから、もしくは、幼虫を機械に入れるという嫌悪感を抑制できるようになったためだろう。
悪癖を断ち切るのに必要な努力
理由はともかく、この調査結果は、自制心や意志力は思っている以上に複雑で、いずれもほかの個人的特質に作用して、まったく異なる種類の行動を促すことを示している。さらに、自制心の高い人は、パートナーや同僚に対する満足度が低いという報告がある。相手が自分の信頼性を利用していると考えているのだ。私たちは、彼らが黙って耐え忍ぶ姿を見慣れてしまって、彼らが払っている犠牲を忘れているのかもしれない。
ポジティブなアファメーションをするにしても、意志力を高めるには微妙なアプローチが必要らしい。自制心は人生で望むものを手に入れるためのツールである一方、私たちはそれを行使すべきでないときを見極められるようにもならなければいけない。悪癖を断ち切るには、衝動を抑える努力を要することがある。だが、そうでないときは一度立ち止まって考えてみることも大切だと知ろう。
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