【食中毒】鶏肉料理で腹痛、ブームの調理法に注意 吐瀉物処理の盲点、「掃除の前に消毒」が超重要

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「カンピロバクターは空気感染はしませんが、接触感染はします。必ず手袋をしてから処理をし、使い終わったら捨ててください。ほかの食中毒の可能性もあるので、マスクもしましょう」(高橋さん)

ポイントは、次亜塩素酸ナトリウム入りの台所用洗剤(キッチンハイターなど)を“最初に振り掛けてから片付ける”こと。多くの人は、吐瀉物の処理が終わってからこうしたものを使うと思いがちだが、細菌に汚染されているのは吐瀉物なので、先にかけておいてから処理をし、最後にもう一度、かけておくのが正しい。高橋さんによると、使う消毒薬は次亜塩素酸ナトリウムのほか、コロナ禍で使ったアルコールでも問題ないそうだ。

食中毒を起こさないためにも、自宅での対策も忘れずにしたい。「食中毒3原則」は、付けない・増やさない・やっつける、だ。

「スーパーで買ってきた鶏肉にはカンピロバクターがいるという前提で処理を」と高橋さん。鶏肉から出たドリップ(水分)はキッチンペーパーなどで拭き取って処分し、肉を切った包丁やまな板はすぐに台所用洗剤で洗って、アルコールなどで消毒をするとよい。

カンピロバクターは熱に弱く、75度で1分間加熱すれば死滅する。ここにも実は落とし穴がある。

「実は、高温でじっくり揚げる鶏の唐揚げより、むしろ気をつけたいのは鶏のソテーや炒めものです。肉の表面の色で判断せず、ちゃんと中にも火が通っているか確認してください。最後にフタをして蒸し焼きにすると中まで火が通りやすいです」(高橋さん)

流行りの低温調理は大丈夫?

近年、低めの温度で調理する「低温調理法」が流行っている。鶏ハム、サラダチキンなどが代表的なものだが、この調理法にも注意が必要だ。

「低温調理は一般的に50〜70℃程度で行います。風味を落とさず、食材の形を変えないという点では優れた方法ですが、殺菌効果としての弱さは否めません。当然ながら食中毒のリスクはあります。低温調理をするのなら加熱時間をしっかり守ってください」(高橋さん)

低温調理の加熱時間は温度によって違う。

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内閣府の食品安全委員会によると、たとえば、63℃で低温調理をしたい場合は、63℃に達した時点から温度を保ちつつ30分間加熱する。55℃では55℃に達した時点から97分間の加熱が必要だ。中心温度計などを刺して、内側の温度を確認する。

低温調理器メーカーの公式サイトにある『低温調理加熱時間基準表』などを参照しよう。料理サイトやSNSなどでは沸騰後の余熱調理を紹介しているものもあるが、それより低温でも加熱調理のほうが安全だ。

(取材・文/伊波達也)

徳島大学医学部医科栄養学科・予防環境栄養学分野教授
高橋章さん
1989年、徳島大学医学部卒業。93年、同学博士課程修了。94年より、アメリカアラバマ大学、ピッツバーグ大学を経て、97年より、山口大学医学部医員、大阪大学医学部助手を歴任。2000年、徳島大学医学部特殊栄養学教室講師、03年。同栄養学科助教授を経て、2008年、現職である同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授(予防環境栄養学分野)に就任。日本細菌学会評議員、日本食品微生物学会評議員、日本カンピロバクター研究会役員ほか。
東洋経済オンライン医療取材チーム 記者・ライター

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とうようけいざいおんらいんいりょうちーむ / TKO Iryou-Team

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