中国の「人類運命共同体」構想にどう向き合うか 真の「責任ある大国」に導く好機として活用を

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「人類運命共同体」は、全人類は運命を共にするという包摂的な構想のはずだが、それを構成するGSIやGCIの内容は欧米への攻撃になっており、矛盾している。また、中国は「責任ある大国として、国連を中心とする国際体系と、国際法を基礎とする国際秩序を堅持する」と一貫して主張するが、国連海洋法裁判所(UNCLOS)の不利な判決を無視しており、言動が一致していない。

それでも、中国と周辺国との2国間文書に「人類運命共同体」が反映されることが増えている。最近では、「中国キルギス運命共同体」や「中国中央アジア運命共同体」のように、個別の国や地域との間の「運命共同体」まで生まれている。

途上国は、自国の経済成長のために中国を必要とし、「人類運命共同体」を受け入れている。中国は、国連を中心とした国際体系を堅持するとしており、国連システムで「人類運命共同体」を推進する動きは続くだろう。

また、中国の構想は内容が曖昧なためさまざまな行動と結びつけやすく、「実践」を演出しやすい。

昨年1月、中国は国連でGDIフレンズグループを立上げ、100余りの国・国際機関が参加した。同9月、王毅国務委員(当時)は、中国の実施したワクチンの共同開発や人材育成支援をGDIの実践だとし、先進国にGDIへの参加を求めた。

世界平和にも努力する姿勢を見せ、「世界平和の建設者」「国際秩序の擁護者」を演出している。

本年2月、中国はウクライナ情勢に関する文書を公表した。同文書は中国のポジションペーパーにすぎないが、中国は和平案のように扱い、特使を派遣したりしている。3月のイランとサウジアラビアの和平合意は、中国の関与の程度が不明なまま、GSIを推進する素晴らしい実践だとされた。

このような「人類運命共同体」の「浸透」と「実践」を通じて、中国は、欧米の秩序を相対的に弱め、自らの影響力の拡大を狙っている。

「人類運命共同体」との向き合い方

中国の影響力拡大に対し、日本やG7としては、国際社会の平和や発展に関する構想を明確にし、発信することで国際秩序を守らねばならない。特にグローバルサウスとされる途上国の国々は、経済発展や食糧、エネルギー、気候変動などを喫緊の課題としており、これらで協力し、共に解決する姿勢を示すことが重要である。そして、提案した協力を迅速・着実に実施しなければならない。

同時に、中国は「人類運命共同体」を通じ、途上国支援や国際紛争調停等、国際的な課題により関与し始めている。日本は、中国の構想に基づく活動をすべて排除するのでなく、中国の個別の具体的な活動をよく観察し、国際的ルールに合致するか、国際社会の安定と繁栄に資するかを判断していけばよい。

そして中国の活動に独善さや言動不一致があれば、矛盾や問題点を指摘し、改善を働きかける必要がある。日本およびG7に求められているのは、自らの国際的責任を明確かつ着実な形で果たしつつ、中国に関与し、真の「責任ある大国」に導くことである。

(町田穂高/地経学研究所主任客員研究員)

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