中国の「人類運命共同体」構想にどう向き合うか 真の「責任ある大国」に導く好機として活用を

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2012年に提起された「人類運命共同体」は、習近平主席が2013年に提唱した「一帯一路」と、2021年以降に提唱した発展・安全・文明に関するイニシアティブにより具体化されると整理されている。

「グローバル発展イニシアティブ(Global Development Initiative(GDI))」は、2021年9月に提起され、経済支援や国際協力を通じた経済発展の重要性などを強調し、途上国を意識した内容である。ただ、具体的な中身が乏しいため、当初は途上国からも国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の書き換えではないかとの疑義を招いた。

「グローバル安全イニシアティブ(Global Security Initiative(GSI))」は、2022年4月に提唱された。一方的な制裁や自国法の域外適用等に反対し、各国の権利を平等に尊重し、「真の多国間主義」を実践することで、国際社会の平和・安全を実現するといった内容で、アメリカ外交へのアンチテーゼの色彩が強い。

また、本年3月に提案された「グローバル文明イニシアティブ(Global Civilization Initiative(GCI)」は、特定の価値観の押しつけでなく、多様な文明・価値観を尊重し、平和や民主、自由を全人類共同の価値として広めるとする。既存の欧米の価値観だけが国際社会で認められるのではない、というメッセージである。

「人類運命共同体」の狙い

中国は何故「人類運命共同体」を強調し始めたのか。2015年の国連総会一般討論演説で、習近平主席は、「中国は終始国際秩序の擁護者であり、途上国が国際社会で代表権や発言権を増すことを支持する」旨述べた。また、傅瑩(FU Ying) 元駐英大使は、2016年の講演で、「国際秩序とアメリカ主導の世界秩序とは別物であり、中国は国連憲章を中心とする国際秩序に帰属するが、アメリカ主導の世界秩序をすべて受け入れることはない」とした。

改革開放以降、中国は、欧米中心の戦後国際秩序の下で高度経済成長を遂げた。しかし、2008年のリーマンショックやアメリカに次ぐ経済大国に成長したことで中国は自信を強め、国際社会での自己主張が目立ち始めた。2013年には、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった「国際公共財」を提供するようになった。

同じころ、アメリカはオバマ大統領が「世界の警察官ではない」と述べる等、国際問題から身を引き始めた。だが、アメリカは、中国の人権や自由の欠如を批判し続け、南シナ海の「航行の自由」を問題にし、中国を対等な仲間とは認めなかった。

中国は、中国の成長がアメリカの覇権的地位を脅かし始めたので、アメリカは国際的なルールや価値観を使って中国の発展を妨害し始めたと理解した。中国は、アメリカの妨害を排除し、最優先課題である経済発展を続けたい。そのため、既存の国際秩序の恩恵を被っていない途上国を味方につけ、アメリカに対抗する必要がある。また、中国の新しい国際的な構想を提示し、途上国の賛同を得て浸透させ、国際ルールを使った圧力をかわしたい。

人権や民主主義を振りかざし、国内問題に「説教」する欧米に反感を持つ途上国も少なくない。「人類運命共同体」は、欧米中心の世界秩序に代わる中国のナラティブ(物語)を国際社会に提示するものである。

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