九月十日[月] 夜半、長崎着。
……ほぼ体調不良の、記録……!!! そう、漱石ってばかなり体が弱かったらしい。船酔いに次ぐ船酔い、そしてお腹を下し、ごはんを食べられない始末。
船に乗り込んできた欧米の人々は、どうやら船に強いらしい。子どもなんて走り回ってすらいる。だが日本人のわれわれは平気ではない、なかでもいちばん船酔いが平気ではないのは自分である……と漱石は日記につづる。ちなみにこの当時、船が揺れることを「動揺」と呼んでいたらしい。
ああわかるよ、しんどいよな、船酔い。しかもお腹まで下して……と漱石に同情してしまう日記の始まりである。
持参した句集を読む気にもならない
ちなみにこの後、漱石は「持って来たかばんの中に句集があったから、読もうと思っていたが、まったく読む気にならない。ていうか俳句の1つや2つ作ろうかと思ったのに、まったく作ることができない。恐れ入ってしまった」と書いている。
旅行に本を持って行って、なんとなく気分が合わず読めないな……という体験はあるあるだが、まさか漱石も同じようなことを言っているとは。
そう、漱石といえば、日本の大文豪の筆頭のような存在だ。千円札に印刷されていたこともあり、国語の教科書にも必ず掲載される、権威そのものである。
だが一方で、漱石の書いた文章をよく読むと、案外その素顔はただの神経質な頭のいいおじさんであることがわかってくる。
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