ドラッカーが「最高の未来学者」と評される所以 チャーチル首相も絶賛した「歴史を読む力」
小島明(以下、小島):私が初めてドラッカーにインタビューしたのは1979年でした。日本経済新聞社のニューヨーク支局長のとき、日経新聞で高齢化の問題を議論することになり、『見えざる革命』を書いたドラッカーに会いにカリフォルニアまで行きました。
当時、高齢社会や人口問題に関する新しい本はなく、人口といえばマルサスの『人口論』で、幾何級数的に増える人口が食糧危機をもたらすなど、おおつかみの議論しかありませんでした。そんななかアメリカの高齢化問題をまともに議論している本が『見えざる革命』だったのです。このインタビューをきっかけに、彼が訪日したときには一緒に食事するなど、30年近い付き合いが始まりました。
ドラッカーはすでに『マネジメント』が日本でもベストセラーになっており、何度か来日していましたが、私は企業経営やビジネスには興味がなかったので、ドラッカーの読者ではなかった。しかし、『見えざる革命』を読んで、その社会の見方に感銘を受け、それから『傍観者の時代』『「経済人」の終わり』『断絶の時代』など、著作をフォローしていくようになりました。
『新しい現実』で受けた衝撃
白川方明(以下、白川):私がドラッカーを最初に読んだのは1989年に出版された『新しい現実』です。もちろん以前からドラッカーの名前は知っていましたが、食わず嫌いだったんですね。「どうせ通俗的な内容だろう」と、はなから軽んじて読んでいませんでした。
きっかけは忘れましたが、たまたま『新しい現実』を読むと、ソ連の人口学的な変化を指摘しながら「最後の植民地帝国の崩壊」が予測されていました。ソ連がうまくいっていないことは知識としてはありましたが、当時は社会主義の国が崩壊するなど思ってもいなかった。
ところが、この本にはソ連が崩壊すると書いてある。そこに強い衝撃を受けました。実際にほどなくしてソ連は崩壊したわけです。そこから、ドラッカーの本は通俗的なマネジメント本ではなくて、広い意味で社会を洞察しているのだと思うに至り、以来ドラッカーを愛読するようになりました。