ドラッカーが「最高の未来学者」と評される所以 チャーチル首相も絶賛した「歴史を読む力」

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田中私がドラッカーに学んだことは、もうお二人のお言葉に尽きていますが、あえて今のお話を敷衍して2つ申し上げます。

1つは、世界や社会を「すでに起こった未来」ととらえる姿勢です。ドラッカーさんが『新しい現実』を書いたとき、好意的な書評さえ、この本を未来の予測本と扱ったらしいのですが、それに対してドラッカーは反発をしています。ソ連の崩壊についての予言めいた話も、時代の大要はすでに形づくられていて、新しい現実を描写することが大事なのであって、リーダーたる者は今日の意思決定に、すでに起こった未来を織り込む必要があるんだと書いています。

では、どうしたら、すでに起こった未来を織り込めるか。つらつらと考えてみますと、『新しい現実』の最終章に「分析から知覚へ」という章があります。この方法論の変化に求められるのではないかと、私なりに思っているんです。

ドラッカーは機械的なシステムと生物的なシステムを対比させています。機械的なシステムは分析によって理解することが可能だけれども、生物的なシステムにおいては知覚的な認識こそが大事なのだと。生態系は全体として観察しなければ理解できないので、ドラッカーさんは読者に対して、「考えるとともに見ることを求める」と最後に言っているんですね。現実を見るときには、生態的な観察が必要であると。ここが1つ、私が感動したところです。

卓越したリーダーシップ論

田中もう1つはリーダーシップ論です。『傍観者の時代』の、ヘンリー・キッシンジャーに関連する記述のなかにリーダーシップ論の本質があるように思います。キッシンジャーは、外交には大人物が必要だと言っていますが、それに対してドラッカーさんは、メッテルニヒやビスマルクのような大人物のあとには空白が生じると書いています。

彼らは頭がいいが、それゆえにやや真摯さに欠ける。本当に必要なリーダーシップというのは勤勉さと献身によって得られるのだと強調しています。権力を集中させずにチームをつくる。あるいは操作ではなくて真摯さによってリーダーになるのだと。

小島:ドラッカーはリーダーシップをいろいろなところで議論していますね。「リーダーシップというのは権力ではなく責務である」と。それから盛んにリーダーシップ論の基本的な要件、今、田中さんがおっしゃった真摯さに言及しています。一緒にやっている人が必ずしも賛成しなくてもいい。リーダーは真摯で、本気であることが大事であると。

もう1つは、人材をうまく活かすこと。よく似非リーダーは自分のライバルになるような人を弾き飛ばしますね。だけど、それはリーダーとして失格であるとドラッカーは言う。自分を脅かすような人、自分を超えるような人もきちんと評価して使う、それがいいリーダーであると。リーダーはいい人材を発掘し、高く評価することが大事だと、彼の議論や著作その他に出てきますね。

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