ドラッカーが「最高の未来学者」と評される所以 チャーチル首相も絶賛した「歴史を読む力」

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「自分は社会生態学者」

小島:ドラッカーは学問的なジャンルのどこにも分類されない人なんですよ。ご本人は「自分は社会生態学者だ」と言っています。人間を捨象した社会科学というのはおかしいんじゃないかと(笑)。ドラッカーは日本のアカデミズムではなかなか認められていないようで、彼の著作を経済学の論文に引用するような人はあまりいませんね。

白川だけど今、経済や国の問題を議論するにも、ドラッカーがどこかで書いているように、1つの生態系として理解しないといけないと、経済学者も意識し始めてきているとは思うんですね。ただ、それをモデル化することは非常に難しいし、たぶんいつまで経ってもモデル化はできないでしょう。現状はモデル化できないから扱わないということになっている。

小島:エコノミストについてこんなジョークがあります。ソ連が崩壊したあと、ゴルバチョフの時代に経済がガタガタになって、結局それでゴルバチョフ自身も失脚した。ソ連にはもう物がない。マーケットに行ってもみんな買い占められて棚には何もない状態になりました。

そんなとき赤の広場で軍事パレードがあった。タンクありミサイルありで、屈強な兵隊が行進している。そのなかにブラックスーツのグループが100人ばかり歩いていた。「あれは何だ?」と聞いたら、「おまえは知らないのか。あれが一番破壊力がある武器なんだ」と。

「彼らは何だ?」と尋ねると「エコノミストたちだ」と。「彼らがソ連経済を崩壊させたじゃないか」と(笑)。結局、エコノミストは経済を再建できなかった、新しい経済をつくり出すことができなかったという皮肉です。

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小島 明 元日本経済新聞社専務・論説主幹

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こじま あきら

1942年神奈川県生まれ。65年早稲田大学政治経済学部卒、同年日本経済新聞社入社。69‐70年、ブリティッシュ・カウンシル招請英マンチェスター大学留学。ニューヨーク支局長、論説主幹、専務取締役を経て、日本経済研究センター会長。慶応大学教授(商学研究科)、政策研究大学院大学理事・客員教授。現在、国際経済連携推進センター理事長。著書に『調整の時代』、『日本経済はどこへ行くのか』など。ボーン・上田記念国際記者賞、日本記者クラブ賞、新聞協会賞を受賞。

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白川 方明 元日本銀行総裁

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しらかわ まさあき / Masaaki Shirakawa

1949年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。経済学修士(シカゴ大学)。第30代日本銀行総裁(2008~2013年)。2018年9月より現職。著書に『現代の金融政策――理論と実際』(日本経済新聞出版社、2008年)、『バブルと金融政策――日本の経験と教訓』(共編著、日本経済新聞社、2001年)がある。

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田中 琢二 元IMF日本政府代表理事

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たなか たくじ

1961年愛媛県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業後、1985年旧大蔵省入省。ケンブリッジ大学留学、財務大臣秘書官、財務省主税局参事官、大臣官房審議官、副財務官、関東財務局長などを経て、2019年から2022年までIMF日本政府代表理事。現在、同志社大学客員教授、公益財団法人日本サッカー協会理事。著書に『イギリス政治システムの大原則』(第一法規)がある。

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