「自分の居場所がない」から抜け出す魔法の言葉 人間関係の悩みの9割は「ほっときゃいいよ」

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ほら、成人しても親の財産を当てにして働きもしない人のことを「すねかじり」と呼ぶでしょう。あれと同じことで、肩書にすがって、そこから得られるものを実力と勘違いしていると思うのです。つまり、「すね」ではなく「看板」をかじっているということですね。そんな「看板かじり」ほど、がんになるとすぐに、「人生が失われた」と思い込むんです。

私は「看板かじり」の人に、こんなアドバイスをするときがあります。

「ご自分の実力と肩書とを混同せず、本当の力を率直に見つめるいいチャンスだと思い直してはどうでしょう。そうすれば、がんになったことはむしろ飛躍につながる転機になるのではないでしょうか」

確かに、苦労して手に入れた地位や肩書を大事に思うのはわかります。けれど、肩書などの看板がなくなっても、ちゃんと人生は続きます。

がんになって失うのは、実際のところ、治療に必要な時間と体力、それから治療費くらいのもので、多くの場合、人生の可能性には大した損失はありません。肩書に過度に頼っていると、その事実が見えなくなりやすいんですね。

そうした人の場合、仕事上の姿勢のゆがみは、がん告知以前からあります。そのゆがみに、がん告知の前には気づかなかったけれど、告知をきっかけにして明らかになることがあるんですよ。「看板かじり」は、その最もわかりやすい例なんです。

がんになるということは、それまでの人生をもう一度見直す機会が与えられるということでもあるんですね。

いつか必ず凪の日が来る

がんがきっかけで、職場で不都合なことが起こったり人間関係でつらいことがあったりしたら、ぜひ、こう思ってみてください。

「いつか必ず凪の日が来る」

人生のある時期に嵐が来ても、いつかは終わります。

そして、波のない静かな海のような平穏な日々が、また、必ずやってきます。

それまでは慌てずに、落ち着いて過ごしていればいいということなんです。

樋野 興夫 順天堂大学名誉教授

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ひの おきお

順天堂大学名誉教授、新渡戸稲造記念センター長、恵泉女学園理事長。1954年島根県生まれ。医学博士。癌研究会癌研究所、米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、米国フォックスチェイスがんセンターなどを経て現職。2002年癌研究会学術賞、2003年高松宮妃癌研究基金学術賞、2004年新渡戸・南原賞、2018年朝日がん大賞、長與又郎賞。2008年順天堂医院に開設された医療現場とがん患者の隙間を埋める「がん哲学外来」が評判を呼び、翌年「NPO法人がん哲学外来」を設立し、理事長に就任。これまで5000人以上のがん患者と家族に寄り添い生きる希望を与えてきた。その活動は「がん哲学外来カフェ」として全国各地に広がっている。

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