「相手に共感」は実は専門家でもなかなかできない 大事なのは気持ちに寄り添うことではない?

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筆者は完全な共感に至ることは難しいと考えます。ただ、それに落胆しているわけではなく、「人の気持ちは簡単には理解できない」と肝に銘じておくことこそ、むしろ大切だと実感しています。

松田さんとの診察室のやりとりを振り返ると、筆者は患者さんの気持ちを十分にわかっていないのに、「それはつらいですね」という言葉を連発していました。それに対して松田さんが失望したのは、当然なことです。

相手の話を聴く際に最も大切なこと

それではどうしたらよいのでしょうか。最も大切なことは、相手の気持ちを理解しようとする「姿勢」です。

よく傾聴という言葉が使われますが、傾聴というと、相手の言葉を繰り返したり(オウム返し)、沈黙して間を作ったりすることを強調する人もいます。しかし、筆者は言葉を繰り返すより相手を理解するために質問することのほうが大切であって、傾聴とは能動的な作業だと思っています。

もし、先ほどの松田さんとの対話について、筆者が彼女の気持ちを理解しようとする質問をしたとしたら違った対話になっていたかもしれません。例えばこんな具合です。

清水:松田さん、どうされたんですか?
松田さん:私の病気はもう治らないって、主治医の先生から言われたんです。
清水:もう治らないって言われたんですね。
松田さん:そうなんです。
清水:今、松田さんはどんなことを思っておられるのですか?
松田さん:家族のことです。私はいいのですが、夫のことが心配で。
清水:ご主人のことで気がかりがあるのですね?
松田さん:はい。実は夫は体が不自由で、私がいなくなったらどうなってしまうか……。

筆者がさらに質問を重ねると、松田さんにとって夫はずっと自分を守ってくれる存在だったこと、ただ夫は脳梗塞を患って体が不自由になったこと、これからは自分が夫を守るために頑張ろうと思った直後、がんが治らないと言われたこと、などを話されました。

ここまで聴いて、筆者は松田さんの気持ちが少し理解できたように思い、次のように声をかけました。

清水:そうですか。これからは松田さんがご主人のことを助けようと思って頑張っておられた。それが続けられないかもしれないと感じて、泣いておられたのですね。
松田さん:はい。
清水:それはつらいですね。
松田さん:そうなんです。

(注:ご主人という家族主義的な用語を使用することに筆者は抵抗を感じていますが、他に適切な言葉が見つからず用いています)

筆者が松田さんにかけた「それはつらいですね」という言葉に対して、今回松田さんは「そうなんです」と返されました。これは、私の言葉を受け取ったという意味があります。

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