「10万人に1人の希少がん」と闘う女性の生きる力 生きてさえいれば、よいことがたくさんある

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メラノーマと診断された女性が「私はわたし」と希望を見出したきっかけとは(写真:zon/PIXTA)
20代、30代のときに突然がん告知を受け、余命と向き合うことになったら――。20年以上がん患者を専門にみてきた精神科医の清水研さんは、若者たちが病とともに懸命に生きる姿から多くのことを学んだといいます。
今も懸命に生きる6名の若者との対話をつづった新刊『絶望をどう生きるか』から、Mさんという女性の体験を抜粋して紹介、人間に備わった「レジリエンス(復元力)」について考えます。※本書では本名で登場していますが、ここでは匿名(Mさん)として紹介します。

前回:5年生存率33%でも…「今を見て大切に生きたい」

Mさん(34歳で発症)は10万人に1人というメラノーマ(悪性黒色腫)を頭皮に発症。頭部拡大切除手術を受けます。しかし、その1年半後に再発。全身に転移が見られましたが、分子標的薬による治療を受けながら仕事(教員)を続けています。

31歳で念願の教員採用試験に合格

Mさんは受験6回目、31歳のときに、念願の教員採用試験に合格します。合格の通知が届いたときは大はしゃぎして喜んだのに、赴任地の通達が届いたときは大いに悩みました。網走にほど近い紋別の特別支援学校に配属となったからです。夫婦離れ離れになることに不安を感じたMさんの背中を押してくれたのはご主人でした。

「せっかく頑張って受かったんだから、行っておいでよ」と。

特別支援学校では男子ばかりの1年生8人のクラスを担当します。毎日、とにかく賑にぎやか。一気に大家族のお母さんになったようで、Mさんは楽しく、愛情いっぱいに生徒たちに接しました。

Mさんは親御さんたちとともに、不必要に縛る子どもたちへの「支援」をどんどん外すことに時間をかけて挑戦していきました。そして、ようやく生徒全員の就職先が決まった年の暮れ、Mさんは、つむじのあたりに黒い大きなほくろのようなものができていることに気づきます。

Mさんには1つだけ、小さい頃から自慢に思っていたことがありました。真っ直ぐでサラサラした黒髪です。それは、お母さんと幼い頃の自分をつないでくれるものであり、高校生のときには、「あんたの髪、超高級って感じがするよね」と友達がほめてくれたものです。

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