5年生存率33%でも…「今を見て大切に生きたい」 絶望や喪失から立ち直る力「レジリエンス」とは

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病と共に生きる若者たちから学んだこととは――(写真:tsukat/PIXTA)
20代、30代のときに突然がん告知を受け、余命と向き合うことになったら――。20年以上がん患者を専門にみてきた精神科医の清水研さんは、若者たちが病とともに懸命に生きる姿から多くのことを学んだといいます。
今も懸命に生きる6名の若者との対話をつづった新刊『絶望をどう生きるか』から、Mさんという女性の体験を抜粋して紹介、人間に備わった「レジリエンス(復元力)」について考えます。※本書では本名で登場していますが、ここでは匿名(Mさん)として紹介します。

「もちろん不安はいつもそばにあります。でも、起こるかもしれないし起こらないかもしれないことを考えて縮こまって生きているよりも、今を見て、大切に生きたいと思っています」

「『今』をどう選択するか。運命を決めるのは『病気』ではなく、『自分自身』だからです」

これは、メラノーマを患い、5年生存率33%と宣告されたMさん(34歳で発症)の言葉です。

3年前には考えられなかった現状

つい3年ぐらい前まで、私たちの多くは安心安全な社会で生きていました。当たり前のように平和な毎日が続き、明日も明後日も1カ月後も1年後も、それほど代わり映えのしない未来がやってくるという想定のもと、日々を過ごしていた方も多いでしょう。

戦争や災害、疫病というものは、歴史の教科書の中の出来事か、自分たちの知らない別世界で起きるものだと思い込んでいたかもしれません。

しかし、2019年末に突然発生した新型コロナウイルスによって、全世界の人間が、解決の糸口が明確でない、先が見えない問題と対峙することになりました。世界の景色はいとも簡単に変わりうることを知るとともに、「自分や大切な人がコロナにかかって死んでしまうかも」「自分が感染して他人にうつしてしまうかもしれない」という不安を常にこころのどこかに感じながら日々を過ごしています。

精神科医の私のもとには、コロナ禍における様々な苦しみから精神疾患が悪化してしまった方や、大切な人の最後に立ち会うこともできなかった激しい悲しみを抱えた遺族の方々が多くやってこられました。

このように全世界が苦難に直面する中、人類が何とかこの状況を乗り越えようと模索している中で浮かび上がってきたキーワードは、「レジリエンス(resilience)」です。

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