5年生存率33%でも…「今を見て大切に生きたい」 絶望や喪失から立ち直る力「レジリエンス」とは

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レジリエンスとはもともと物理学の用語で、バネがたわんでも反発してもとに戻る「復元力」を指していましたが、そこから派生して「困難な状況にしなやかに適応して生き残る力」を意味する心理学用語として、近年は知られるようになりました。

象徴的なこととして、野口聡一さんが搭乗した宇宙船の名前は「レジリエンス号」でしたし、アメリカのバイデン大統領やハリス副大統領の希望に満ちた演説の中でも、この用語は登場しています。

レジリエンスという言葉にまだ耳なじみのない方も多いかもしれませんが、これは決して特別なものではなく、私たちすべてに内在し、誰もが発揮しうる力です。今この文章を読んでくださっているあなたの中にも、潜在的にその力が存在します。

もしあなたが困難な状況に直面しているとしたら、自分の中にあるレジリエンスを発揮することで、困難を潜くぐり抜けることができます。

レジリエンスを発揮するには

しかし、レジリエンスを発揮するにはどうしたらよいのか、その具体的な方法はまだよく知られていないと思います。ですから私はレジリエンスについてみなさんにお伝えしたいと、こころから思っているのです。

冒頭のMさんとの最初の出会いは、「AYA Life」というサイトが企画した座談会でしたが、私はこころから衝撃を受けました。

20代、30代というと、健康を前提として、自分の人生が当たり前のように続いていくと感じている人がほとんどでしょう。

Mさんがどんな人生を歩んできて、がんを体験することでどのように苦悩し、そして今に至るのか。その道のりは決して平坦なものではなかったと思いますが、「レジリエンスとは何か」ということを私たちに教えてくれます。

※Adolescent and Young Adultの略で、AYA世代とは15~39歳の期間をさします。

私ががん医療の現場で精神科医として働くようになってから、早いものでかれこれ20年が経たちます。がん医療の現場での臨床を始めた頃、とても印象的な患者さんがいました。

私より少し若い20代の男性患者さん(仮にAさんとします)でしたが、手術をしたのにすぐに再発してしまったのです。再発がわかったときは非常にショックを受け、「僕は何も悪いことをしていないのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないんだ」と、人生の理不尽さを感じ、怒りをあらわにしていました。

その後、腫瘍がどんどん大きくなり、健康なら当たり前にできるさまざまなことが制限され、食事すら満足に摂とれない状況となりました。担当医より若いのにがんの病状が進行してきっと気持ちもつらいだろうから、話を聴いてみてほしいと頼まれ、私は彼とお会いすることになったのです。

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