Aさんのベッドサイドにおもむく前にカルテを見ました。
この状態でどんな心境なのだろう。もし私がこの状況だったら絶対に耐えられないだろう。そんな彼に私は何か言葉をかけられるのだろうか、何ができるのだろうか……。そんなふうに感じたまま私は、恐る恐る彼のところに足を運んだのですが、Aさんは、「先生、会いに来てくれてありがとう」と笑顔で迎えてくれました。
家族や看護師など周囲の人にも、いつも感謝の気持ちを伝えていました。ジュースを飲んで「おいしい」と屈託のない笑顔を見せたり、好きな小説を読んで感動したことなどを楽しそうに話していました。
当時の私には、Aさんがなぜそんなふうに取り乱さずにいられるのか、周囲に気配りをし、笑顔を見せることができるのかが理解できませんでした。
厳しい病状でありながら、絶望しているわけではなく、周囲に感謝しながら、その瞬間、瞬間を前向きに生きようとしている。恐る恐る話しかけていたにもかかわらず、彼はいつも私をあたたかく迎えてくれました。
彼が亡くなったとき、私の中には彼と別れた悲しみとともに、彼に対する尊敬の念が湧きました。時間が限られているし、病気によるさまざまな不都合がある。にもかかわらず彼には迷いがなかったように感じました。あんなふうに確固としたありようで、前向きに生きられるのはどうしてなのだろうか?
彼の生き方は私にとって驚きでもあり、レジリエンスの存在を意識するようになった最初の体験でした。
人には困難と向き合う力がある
それからしばらくして、私は心理学においても人には困難と向き合う力があることが示されていることを知りました。次の図は「心的外傷後成長モデル」という心理学の考え方です。
これに沿って説明しますと、以下のようになります。
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