放射線は人体にどう影響するか、放射線による健康被害とは何か
切断されたDNAはほとんど修復される
人の体が放射線に被曝したり、放射線を出す放射性物質を取り込むと、そのエネルギーはすぐに細胞や器官・組織に吸収され、細胞を構成する分子の化学的結合を切断する。
重要なのは、DNAの化学結合も切断してしまうことだ。DNAには、親細胞が娘細胞に正確に伝えるべき生命の基本情報が書き込まれている。DNAが損傷を受ければ、誤った情報を娘細胞に伝えることになり、細胞が正しく機能しなくなる。
ほとんどの場合、DNAは損傷しても自ら修復することができる。ただ、一度に高い線量の放射線を受けてしまうと、その修復機能が追いつかない。損傷の量が多ければ、細胞死を引き起こし、臓器や器官の不全や機能低下が生じる。
高い線量の放射線を受け、多くの細胞死が起こると、数時間から数週間で、髪が抜ける、血液細胞が減少して感染症にかかりやすくなる、子供が産めなくなる、などの症状が出てくる(「確定的影響」と呼ぶ)。
これらの影響の特徴は、被曝線量がある値を超えて初めて出てくるということだ。その値を「しきい値」という。逆に、しきい値以下の被曝なら何も影響は出ない。
放射線医学総合研究所・放射線防護研究センターの島田義也氏はこう説明する。「さまざまな症状のうち、最も低いしきい値は男性の一時的不妊で、その数値は10万マイクロシーベルト。10万マイクロシーベルトを超えないかぎり、急性の臨床症状を心配する必要はない」。