放射線は人体にどう影響するか、放射線による健康被害とは何か
なお、国際放射線防護委員会(ICRP)は、10万マイクロシーベルトの被曝で発がん頻度は0・4~0・5%増えるとしているが、その数字をどう見るか。言うまでもなく、日本人の死因トップはがんで、今や2人に1人ががんにかかる時代だ。「その確率がほんの0・5%上がるとしても、たばこをやめたり生活習慣を改善することで、がんのリスクをキャンセルできる」(島田氏)。
飲食物から体内摂取、健康への影響はあるか
1986年、旧ソ連(現ウクライナ)で起こったチェルノブイリ原発の事故で、放射性物質に汚染された地域の住民は約500万人(→参考記事:チェルノブイリの放射能汚染はどのくらいの地域に及んでいるのか)。その人々に見られた明らかな健康被害は、子供の甲状腺がんだった。科学的根拠に基づいた事実はこれだけだ。
甲状腺は、ヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを合成し、分泌する器官。子供ほど感受性が高く、放射性ヨウ素を過剰に取り込んでしまったことが原因と思われる。ただし、「ロシア内陸部はもともと栄養素としてヨウ素が不足している地域。海藻などからヨウ素を摂取する習慣のある日本でも同じことになるかは明確でない」(児玉教授)。
原発事故をきっかけに、よく耳にするようになった「ヨウ素131」はヨウ素の放射性同位体、「セシウム137」や「セシウム134」は、セシウムの放射性同位体だ。ヨウ素131は、放射線を発しないヨウ素と同様、体に入ると甲状腺に集まり、セシウム137やセシウム134は、同族元素であるナトリウムやカリウムに性質が似ているため、筋肉に集まりやすい。こうした物質を吸い込んだり、食物に付着したまま経口摂取すると、体内で放射線を発し、細胞を損傷させ、健康被害を起こすおそれがあるというわけだ。
ただし、それはあくまでも、長期間にわたって摂取し続けた場合の可能性の話。前述したとおり、細胞が多少損傷したとしても修復できるし、ヨウ素131は体の中に入って8日間、セシウム137は70~100日間で放射能レベルが半減する。
今回出荷を制限された野菜や牛乳や、水道水などから検出された放射性物質の測定値は、食品衛生法で定められた暫定基準値を上回ってはいるものの、すぐに健康被害を起こす数値ではない。それでも、国がなるべく摂取しないよう要請しているのは、今後長期にわたって摂取した場合の健康被害の可能性を勘案したからとされている。
(週刊東洋経済2011年4月2日号)
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