元商社マンが「ゲストハウス開業」で見つけた天職 理不尽に苦しんだ会社員から一転「掴んだ幸せ」

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Go To トラベルの急な休止や長引く緊急事態宣言の影響を受け、2021年上半期の売り上げ実績は過去最低。当然だが、御宿印帳の売り上げが減収分を穴埋めするほどにはなっていない。しかし宿泊者の内訳を調べると、御宿印帳プロジェクトを通じて来てくれたお客さんが4分の1強もいた。

御宿印帳をきっかけに久々の再来をしてくれたリピーターさんもいた。思わぬコロナ禍で、暇な時間があったからこそできた取り組み。そして、御宿印帳から生まれた出会い、ネットワーク。「すごくシンプルだけれど、人のために一生懸命やったことは自分にも返ってくるなと思いました」。

コロナ禍の収まりに伴って宿泊客が戻り始め、今は毎日、忙しく過ごしている。開業当初に掲げた「すべてのお客様に笑顔で帰っていただけるゲストハウスにしよう」というスタンスは今も変わらない。ホテルや旅館ではなく、ゲストハウスを選ぶお客さんがもっと増えてほしいと思うし、コロナ禍で心に染み入ったリピーターさんへの感謝はこれからも忘れることがないだろう。

「自分の責任と裁量で働けるのは幸せ」

会社員時代もお客さんのため、家族のため、そして何より自分のために働いていたと思う。けれど理不尽なことで怒られたり、どうでもいいことをやらされたりするのはストレスだった。独立してからは、そういうストレスはほぼなく、楽しい。

ゲストノートをエリアごとに分けるほど世界中からお客さんが来ている(写真:城下智久さん提供)

「それほど儲かる仕事ではないのですが、自分の責任と裁量で働けるのは幸せです。そもそも、この世に生まれてきたことだけでラッキーなのだから、誰だって楽しく生きたいじゃないですか。お金はたくさんあっても困らないかもしれないけれど、お金儲けばかりに執着していたらつまらない人生になってしまう」

会社勤めに疲れ、早期退職して働かずに暮らしたいと思っていたのが遠い昔のようだ。「今の仕事は定年がない。仕事があるおかげで、いろいろな人と話をして、体や頭を使う。昔は早くリタイアしたいと思っていたけれど、働くことは悪いことではない。そう思えるようになりました」。

外国人観光客が戻ってきた昨今。これまでにシロノシタゲストハウスを訪れた訪日客は70余りの国と地域に及び、これからますます需要が高まっていくだろう。姫路城の、まさに「城の下」で、城下さんは今日もお客さんを温かく迎え入れている。

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吉岡 名保恵 ライター/エディター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、地方紙記者を経て現在はフリーのライター/エディターとして活動。2023年から東洋経済オンライン編集部に所属。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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