「女性なくして成長なし」 目覚め始めた日本企業
IT化、そして少子化。女性を活躍させない企業はもはや生き残れない。外資で才能を開花させてきた日本女性に続き、日本企業で活躍する女性幹部たちを紹介する。
(週刊東洋経済2月9日号より)
1月30日、日産自動車が米国である賞を受賞した。米NPO法人カタリストが毎年、女性幹部登用で成果のあった企業に贈る「カタリスト賞」。経営者も注目するこの賞をアジア企業が受賞するのは、1987年の開始以来、初めてのことだ。
受賞理由の一つは意思決定層における女性比率の高さだ。女性向けのキャリアアドバイザーなどを設けた結果、2004年に36人だった管理職数は07年には101人に拡大。デザインや企画、商品開発部門での管理職比率も2倍に膨らんだ。
女性登用に難しい論理はない。「自動車のお客様には女性が多いということ」(吉丸由起子・日産ダイバーシティディベロップメントオフィス室長)。「その要望に応えるには、男性とは違う女性の価値観を経営に取り入れることが必要」なのだ。
ビジネスの変容で女性活躍は必然に
「ムダな残業はするな!」。鈴木茂晴社長の大号令で、大和証券は昨夏ごろから、社員に夜7時までの退社を促す取り組みを始めた。原則、国内118支店まで含めた社員全員が対象だ。「リテール(個人取引)のビジネスモデルは変わった。深夜まで居残っていただけで、評価なんてされない」(鈴木社長)。
証券会社が短期的な株式売買を顧客に勧めて手数料を稼ぐ営業方式が主体だったのは昔。今では投資信託など長期投資商品で安定的な収益を積み上げつつ、顧客から預かった資産を一緒に増やしていくコンサルティング型営業へ比重は移った。新しいビジネススキームの下で、女性は手腕を発揮。ほんの10年前までは1割未満だった新人総合職の半分は女性が占める。「周りが残業しているのに、自分だけ育児時短で帰りにくい」という悩みも、残業改革がすっきり解消。「女性社員が一段と力を発揮する」(鈴木社長)素地が整った。
トップ企業の経営者は今や女性活用に真剣そのものだ。たとえばソニーで05年に発足した「DIVI(ダイバーシティ・イニシアティブ・フォー・バリュー・イノベーション)」プロジェクトは中鉢良治社長の直轄組織だ。実は、ソニーグループの中での日本地域は女性管理職比率で”劣等生”だ。
中鉢社長就任以前の05年3月期で比較すると、米国約33%、欧州約15%であったのに対し、日本はわずか3%程度。この事実に「中鉢さんは女性社員以上に非常に強い問題意識を持っていた」(人事センター人材開発部DIVI事務局の伊藤理恵統括課長)。DIVI議論の場には中鉢社長も時折参加し、積極的に助言する。今年1月からは女性管理職向けのメンター制度を試験的に開始するなど、「女性の人材をもっと育成しようという空気が醸成されてきた」(人事センター人材開発部の萩原貴子統括部長)。
日本企業は今後、欧米だけでなくアジアとの連携の中でインド人や中国人を採用していくことになる。「その手始めとして女性を活用し、働きやすい環境づくりや評価制度をクリアにすることが、ひいては男性にも外国人にも働きやすい職場につながる」。日本企業のダイバーシティ・マネジメントを支援する団体 J・Win(Japan Women’s Inno-vative Network、カタリストの姉妹組織)の西田浩子事務局長は指摘する。
「経営トップにはダイバーシティ(多様性)への認知浸透が広がり、ここ1~2年で専門部署を立ち上げる動きが活発だ。特に、合併を経験した企業は異なった企業カルチャーのぶつかり合いの中でダイバーシティの必要性を肌で感じている。一方、女性社員の意識もどんどん高まっている。問題は”粘土層”と呼ばれる古い意識のままの人たちがどの社にも少なくないこと」(西田氏)。しかし、この粘土層に水を通す心強いロールモデルが生まれ始めている。
通信各社で大活躍、30代のCFOも
「日本一の育児支援を目指す」と昨年、出産祝い金を増額したソフトバンク。第1子は5万円だが、第5子になると500万円に急騰するのが特長だ。孫正義社長のモットーは「仕事はやる気が大切。学歴も性別も関係ない」。ソフトバンクBBの野村裕美サポート品質管理部部長は、まさにそれにぴったりの人物だ。