オムロン、「消費電力の見える化」で狙う工場改革 生産性が向上し温室効果ガスの排出量も削減

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オムロンの制御機器事業で、カーボンニュートラルプロジェクトのリーダーを務めるのは高市隆一郎氏。2010年当時、高市氏は工場の省エネルギー化を進めていた。綾部工場(京都府綾部市)では次のようなことを行っていた。

工場内では、空気中に漂う塵など微細なごみを極力減らすことが、品質を保つのに重要だ。そのごみが機器や製造中の製品に入り込むことを恐れて必要以上にファンを回すなど、無駄な電力を使うことも多かった。そこで工場内のごみの量をセンサーで検知、清潔な状態になったらファンなどの設備を止めることで不必要な電力の使用を削減した。

こうした取り組みの結果、2010~2021年の間で、綾部工場は生産ラインの消費電力を約15%削減した。ただ、事業の成長に伴って工場の稼働率が高まり、省エネに取り組む余地が減少した。それを機に発想を転換。単純にエネルギー量を削減するのではなく、稼働率改善などによって売上高や付加価値額を増やし、エネルギー生産性を上げる方向へ舵を切った。

「ボケとツッコミ」の掛け合いが成立

関西育ちの高市氏は、電力などのエネルギー消費量を漫才のツッコミに、売上高や付加価値額をボケに例える。「漫才にはボケとツッコミの掛け合いが不可欠。綾部工場で鍛えたツッコミという無駄削減に加えて、『オールインハーフ』というボケ役が新たに生みだされて掛け合いが成立するようになったのがこれまでとの違いだ」と話す。

エネルギー生産性の向上に取り組むにあたって、松阪事業所は最適だった。綾部事業所で製造するFA(生産工程自動化を図るシステム)用の制御機器は多品種少量生産。年に1回しかつくらない製品もある。だが松阪事業所では、血圧計をはじめ年中同じものをつくる。成果を測りやすい。

オムロンヘルスケア松阪事業所
オムロンヘルスケア松阪事業所の第3棟。2020年に竣工したこの建物がオムロンのモデル工場となった(写真:記者撮影)

取り組みは始まったばかりだ。オムロンヘルスケアは松阪事業所のほかに中国、ベトナム、ブラジル、イタリアに生産拠点を持つ。それらの工場では生産ラインごとの消費電力量をまだ把握できていない。2023年度以降に現状を把握して、松阪事業所の成果を海外展開していく方針だ。

オムロンとしては、制御機器事業の商機につながるとそろばんをはじく。「松阪事業所での取り組みには一般化できるものが結構あるので、顧客にサービスとして届けることを考えている」(高市氏)。

また、制御機器事業の展開先である製造業では、カーボンゼロの生産ラインで製造されたものを納入する要求が高まっている。「製造業には顧客からの圧力がかかり、(費用負担の面からも)エネルギー使用量を削減せざるをえない状況にある」と、高市氏は話す。松阪事業所での取り組みを紹介することで受注獲得にもつながるとにらむ。

エネルギー生産性向上を進めるオムロン。自社工場の改善にとどまらず、売上高にもつながる「一粒で二度美味しい成果」を上げられるかもしれない。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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