次の標的は大林組、英ファンド「株主提案」の狙い 株主還元の口実に「PBR」、強まる株主の圧力

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一方、シルチェスターの発表文には、地銀に対して行った株主提案に見られなかった記述もある。大林組のPBR(株価純資産倍率)について「東京証券取引所のガイドラインが求める基準を満たすには、不十分」と論じている点だ。

東証は2023年3月末、プライムおよびスタンダード市場の上場企業に対して、資本コストや株価を意識した経営に向けた改善策を講じることを求めた。東証はPBRについて「1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安」と指摘している。

大林組の実績PBRは約0.8倍。株主還元強化を通じて資本の圧縮を促せば、理論的にはPBRが改善する。シルチェスターは東証の動きを早速引き合いに出しつつ、提案内容の妥当性を補強した形だ。

「口実」を与えた東証

PBRの「我田引水」はシルチェスターに限らない。戸田建設は25日、大株主のアクティビスト(物言う株主)の「ダルトン・インベストメンツ」から、自己株取得を求める株主提案を受領したと発表した。提案理由では、やはり東証によるPBR改善の要請を挙げている。東証は図らずも、アクティビストが企業に揺さぶりをかける「口実」を与えた形だ。

かねてから株主の圧力にさらされてきたゼネコン業界。還元性向の低さに加えてPBR1倍割れという新たな弱点を抱えたゼネコンは、資本市場のさらなる洗礼を受ける可能性がある。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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