定年夫婦が互いに「イライラ」してしまう根本原因 昼間の大半の時間を過ごす場所を互いに確保

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ある年配の男性が、私にこんなことを言ってくれたことがある。

「黒川先生は、『妻のトリセツ』の中に、ゴミ捨てに8工程があるって、書いてたでしょう? ゴミ袋の在庫管理、ゴミの分別……夫が手伝ってるゴミ捨てなんて、その一工程にしかすぎない、って。先週の日曜日、僕が2階の書斎で横になって本を読んでいたら、下で妻が掃除機をかけている音が聞こえてきた。それが几帳面に、部屋の隅を何度もなぞる音なんです。僕は不意に、妻はゴミ出しだけで8工程もあるような家事を何十年もこなしながら、こうして丁寧に掃除機をかけてるんだ、と思いいたって、目頭が熱くなりました」

妻への感謝というか、妻の人生の重みというか、そういうものが迫ってきたのだという。「それに気づかせてくれて、ありがとうございます」とその方はおっしゃったけど、私のほうこそ感謝である。私の一冊が、こんなふうに夫婦の愛着を養ったのかと思うと、胸がいっぱいになる。

で、そのとき、悟ったのである。夫婦が別々にいるのは理想だけど、生活音が聞こえないと、「相手の人生」を感じることができないんだなと。

ちなみに、わが家の夫は、定年退職後、革細工を始めた。その腕前は想像以上で、商品と見まがうくらいの、プロのような仕上がりなのである。私のトートバッグや眼鏡ケース、携帯電話の充電ケーブル入れも作ってもらっている。私たちは、1階と3階に部屋が分かれているけれど、夫の使う木づちの音が聞こえると、なんだか安心して、優しい気持ちになってくる。人が動く音は、やっぱりいい。

というわけで、互いの音を聞きましょう。

笑顔は、愛着を育てる

夫婦の愛着を培うコツは、もう1つある。笑顔である。

たまに廊下ですれ違うとき、食事時にリビングで顔を合わせる瞬間、笑顔を心がけよう。笑顔をくれる人に、人は愛着が湧きやすいから。

人は、他人には、けっこう笑顔をプレゼントするのだけど、長年連れ添った伴侶には、案外笑顔を向けないものだ。一番、愛着を分かち合わなければならない相手なのにね。

結婚した以上、愛着なんて努力しなくても、そこにあるものだと思ってる? 婚約指輪のように、不変の輝きを擁しているものだと? いやいや、「愛着」は生き物である。鉢植えに水をやらないと枯れてしまうように、笑顔も優しい共感のことばもなかったら、愛着はついえてしまう。鉢植えの花に水をやるように、妻に(夫に)、笑顔をあげよう。

次ページ習慣は、夫婦の絆になる
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