資源を薄利多売するロシア、暖冬に救われた欧州 ウクライナ侵攻で貿易半減し双方にダメージ

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もちろん、ダメージを被るのはユーロ圏も同じではある。2022年から2023年にかけてはたまたま暖冬に恵まれ助かったが、エネルギー調達という点に関し、ロシアから他の国・地域への代替はまだ完了していない。

EUはLNG調達を増やすことで脱ロシアを図ろうとしているが、LNG受け入れに必要な設備の準備には最短でも3年程度の単位で時間が必要になる(貯蔵タンクや気化装置を陸上建設するのに許認可含めて5年以上、より早い浮体式基地でも3年程度と言われる)。

2023年央に差し掛かってくれば2022年同様、今冬を念頭にしたエネルギー供給懸念が再び強まる可能性は高い。

「世界はより貧しくなる」

このようにEUとロシアの貿易を見るだけでも、地政学リスクの高まりを理由にして経済・金融面での制裁が相次ぐようになれば、必然的にグローバリゼーションの巻き戻し、いわばスローバリゼーションともいえる状況が強まり、「世界がより貧しくなる」方向へシフトしていくというIMFの読みは正しいように思えてくる。

ロシアのような資源大国を巻き込んだ世界経済の分断はエネルギーを中心とする供給制約を助長し、世界のインフレ圧力を押し上げる方に作用する。それが過去1年で世界が体感したことでもある。

今後、超長期的に見れば「景気が弱くなる→デフレ圧力が増す」という未来はありうる展開としても(実際、WEOの第2章ではそうしたテーマが議論されている)、より短い時間軸ではスタグフレーションの色合いを帯びながらの低成長を強いられる可能性が高いと考えられる。

地政学上の摩擦は経済合理性を考慮することなく持続するため、多くの国・地域が十分に貧しさを実感する状況に至らない限り、事態の収束へ動き始めることは期待しにくいのだろうか。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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