中国エリート「大企業よりプチ肉体労働」選ぶ事情 長時間労働という泥沼生存競争からの大脱走

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若者の失業率が記録的な高水準となっている中国で、大企業に勤めるエリートたちが「プチ肉体労働」に移る現象が注目されている(写真:Qilai Shen/Bloomberg2023)

一般的な基準からすれば、ロレッタ・劉は「勝ち組」だった。2018年に中国のトップレベルの大学を卒業。深圳の華やかな街でアパートを借り、大成功している企業にビジュアルデザイナーとして次々に雇われてきた。中国では若者の失業率が記録的な高水準となっているにもかかわらず──。

だが昨年、劉は会社を辞めた。今はチェーンのペット店でトリマーとして働いている。収入はそれまでの5分の1になった。以前は慎重に選び抜いた服を身にまとっていたが、今は制服姿で何時間も立ち仕事をしている。

以前のような暮らしにはうんざり

しかも、劉はそれに満足していると言う。

「以前のような暮らしにはうんざりしていた。仕事からはまったく達成感が得られなかった」。以前の仕事では、創造性を発揮する自由はほとんどなく、残業を強いられることも多く、心と体の健康がどちらも失われていくように感じたと劉は話す。「だから、あんな仕事を続ける必要はもうないと考えた」。

中国では劉のように、若者が重圧にさらされるハイクラスのオフィス仕事を捨てて肉体労働系の仕事に移る現象が注目されるようになっている。この潮流の規模を測定するのは難しいが、ソーシャルメディアで広く共有されている投稿からは、テック企業で働いていた人が食料品店のレジ係になったり、会計士が露店でソーセージを売るようになったり、コンテンツマネジャーが食品デリバリーの仕事に就くといった例が確認できる。インスタグラムに似た「小紅書」というアプリでは、「私の肉体労働初体験」というハッシュタグの閲覧回数が2800万回を超した。

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