アメリカで物議を醸す「州境変更」という運動 近未来にありうるかもしれない第2の南北戦争
ここでその賛否を問うことはしないとしても、驚くべきことは、トランプがロシアよりも国内の政敵たちを脅威だと支持者たちに訴えていることである。トランプのこうした発言は、外部との対比のなかで憎悪の火種を内側に探し出し、それを強引に燃え上がらせようとするものであり、バイデン政権の対外政策の是非以前に、アメリカの分裂を促しかねない危うさを秘めている。
もちろんこれとて、揶揄や攻撃を常とするトランプのいつもの発言にすぎないと言えるかもしれない。ただ、前大統領のこのような発言が、国内外で、もはやとくに注目を集めもしないということが示しているように、わたしたちはトランプが象徴する現在のアメリカに、あまりにも慣れてしまった。このこと自体が、アメリカはある一線の先へと、もうすでに進んでしまったのではないかと疑わせるところでもある。
民主主義と専制国家の中間の状態「アノクラシ―」
分裂の先に起きることはいったいなんだろうか。政治学者のバーバラ・F・ウォルターが示すのは、内戦勃発というシナリオである。ハリウッド映画のプロットではない。実際にあり得るアメリカの可能性として、ウォルターはその危険性を『アメリカは内戦に向かうのか』で描いている。
その邦訳のタイトルのとおり、アメリカにおける内戦の可能性とその条件が、とくに本書の後半では主題として扱われる。
その前半では、アメリカ以外のさまざまな国や地域の事例に依拠して、内戦の起きるプロセスが膨大な研究蓄積によって語られていく。悲劇に遭遇した当事者たちへのインタビューをまじえつつ、平穏な日常が徐々に、しかし着実に破られていく段階が臨場感をもって綴られる。アメリカによる軍事介入後のイラク、凄惨なジェノサイドをともなったボスニア内戦、ながらく続いたフィリピンのミンダナオでの紛争。本書はその意味で、アメリカにかぎらず、世界各地での民族紛争勃発のメカニズムに関心のある向きに一読を勧めることができる。
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