ロシア・ウクライナ戦争が日本に及ぼす最大影響 欧州の安全保障、米国の防衛資源配分を読み解く

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2022年6月にドイツで開かれたG7首脳サミットでウクライナの国旗を掲げ、デモ行進する女性
ロシア・ウクライナ戦争の欧州とインド太平洋への影響とともに戦略的意味を考える(写真:Krisztian Bocsi/ Bloomberg)

9月のハルキウ州奪還を契機としたウクライナの驚異的反攻により、ロシア・ウクライナ戦争におけるロシアの劣勢が明らかとなってきた。東欧諸国の加盟によるNATOの「東方拡大」を脅威と捉えたロシアの行動は、逆に欧州の団結を促し、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟決断という「北方拡大」やNATOの強化を招いた。

こうした中、今後の欧州安全保障はどのようなものになるのだろうか。また、欧州防衛の中核を担うアメリカは、ロシアの脅威と中国との競争の狭間で、どのように防衛資源の配分を行うのか。それが日本を含むインド太平洋にどのような影響を与えるのだろうか。

抑制的な前方兵力強化

ロシア・ウクライナ戦争を受けて、NATOは6月の首脳会合で、12年ぶりとなる新戦略概念を採択し、対露防衛強化に動いた。しかし、そこで明らかとなったのは、「隅から隅まで加盟国の領土を防衛する」との強い言葉とは必ずしも釣り合わない前方配置部隊の抑制的な増強だった。

新戦略概念は、ロシアを「最も重大かつ直接的な脅威」と位置づけて前方防衛を強調し、また、有事増援部隊の核として、現行4万人の即応部隊に代わる30万人体制の新戦力モデルへの移行が合意された。

しかし、実際の前方兵力が大きく増強されたわけではない。NATOは、これまで展開してきたバルト三国とポーランドに加え、新たにスロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアにも大隊規模の多国籍戦闘群を展開したが、それらは6月時点で計1万人にとどまる。

また、首脳会合の宣言では、これら大隊の旅団規模への増強に合意したが、「必要な場所と時に」増強するとされ、配置のタイミングや常駐か否かは明らかにされなかった(その後9月にドイツ率いるリトアニア配置の旅団司令部要員100人の同地到着が発表されたが、その指揮下の戦闘部隊は、訓練でのローテーション展開とする計画のようだ。)。

新戦略概念と同じ時期にアメリカが発表した在欧アメリカ軍強化策でも、ロシアの侵略開始以来、アメリカ軍2万人を増派していることに触れつつ、ポーランドへの陸軍第5軍団前方司令部の設置や、ルーマニアへの1個旅団戦闘団の追加展開などを決めたが、劇的な兵力の増派はない。

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