この点、アメリカ軍においては、海兵隊で戦力の見直しが行われようとしており、中国のA2/AD脅威への対応として、ミサイルや無人機を擁する小型で分散した部隊への転換が提唱されている。
その一環として、戦車等の旧来型の装備品を廃止する方向性が打ち出され、退役する戦車は陸軍に移管する計画だ。一方、陸軍も、長射程の地上発射型ミサイルを装備したマルチドメイン任務部隊の編成に注力しており、欧州に増派された旅団戦闘団のような部隊は、控えめに言っても余力がある。
しかし、そうした旧来型部隊における余力が投げかけるのは、戦略レベルでは、新たな国家安全保障戦略で中国を「唯一の競争相手」と位置づけたにもかかわらず、その実施レベルでは、いまだアメリカ軍全体が対中シフトに最適化した戦力構成にはなっていないという現実である。
対中防衛シフトを加速させる契機に
現状、欧州に拠出しやすい旅団戦闘団等の部隊は、地続きのロシアと対峙する欧州とは戦略環境がまったく異なる西太平洋で、中国の海空ミサイル戦力に対処しうる戦力ではない。仮に、ロシア・ウクライナ戦争により弱体化し通常戦力では欧州のみで対処しうるかもしれないロシアへの対処を口実に、旧来型の部隊が広く温存され、アメリカ軍全体の戦力の優先順位付けが妨げられるとすれば、それがロシア・ウクライナ戦争がインド太平洋にもたらす最も大きな懸念となる。
そして、現在、アメリカすら地上発射型ミサイルや無人アセットを十分戦力化できているわけではないということは、日本が欧州のアメリカ同盟国より戦略的に死活的な立場に置かれうることを意味する。欧州と比べてインド太平洋でアメリカがいまだ十分な手段を提供する準備ができていないということは、反撃能力の保有を始めとする日本の自助努力やそれに基づく日米相互運用性のさらなる向上が、地域の安全保障にとってカギとなることを示しているからである。
これが、ロシア・ウクライナ戦争が日本に及ぼしうる最も大きな影響かもしれない。日米両国は、そのリスクを自覚したうえで、これをむしろ対中防衛シフトを加速させる契機とすることが求められる。
(小木洋人:アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 主任研究員)
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