ロシア・ウクライナ戦争が日本に及ぼす最大影響 欧州の安全保障、米国の防衛資源配分を読み解く

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アメリカ軍司令部のポーランド設置は、ポーランドを前方部隊の拠点とする姿勢を表すものでありつつも、依然として在欧米陸軍主力4万人はドイツに所在し、主力部隊が東部正面の奥に控える「二段構え」の態勢を構成していると言える。

この抑制的な前方防衛態勢は、西ドイツの東側国境を防衛するため8個軍団40万人以上の兵力を国境沿いに張り付けていた冷戦期NATOのそれとは対照的である。

NATOの戦略的優位性の高まり

NATOの前方兵力が劇的に増えていないのは、欧州諸国による準備が追い付いていないこともあるが、より根本的なのは、ロシア・ウクライナ戦争以前から、計350万人の加盟国兵力を擁するNATOが通常戦力ではロシアを圧倒してきたという事実である。そして、ロシア・ウクライナ戦争は、ロシア軍を消耗させることにより、その国力の中核たる軍事力の低下を招き、その傾向に拍車をかけたのである。

6月時点で、ロシアはウクライナ東部地域に兵力を集中し、一進一退しつつも前進していた。しかしその被害は甚大であり、ウクライナの発表によれば、ロシア軍は、開戦以来3.5万人の兵力を失った。ロシア全体で地上兵力が計33万人と見積もられていることを踏まえると、この時点で、増援部隊を含めず、東部正面における3万人のNATO前方兵力と30万人のホスト国兵力のみで、すでにロシア軍全体の常備地上兵力を上回っていた可能性もある。

このようなロシアの軍事力の低下は、短期的には回復しえない基調となった。ウクライナ軍がアメリカ等から供与された精密誘導兵器を用いて敵の力を弱めつつ、その高い機動力を生かして被害を抑え前進しているのに対し、ロシア軍は、機動力の低さと火砲・ミサイルの精度の粗さにより被害を拡大している。

ロシア軍の損耗はロシア・ウクライナ戦争が続く限り拡大する構造的なものであり、またそれが終わったとしても、人員装備の損耗や武器生産能力の低下により直ちに回復はできない。

ロシアに強みのある核についても、これまで戦術核の使用が懸念されてきたが、その被害や影響がロシア軍にも及びうることを踏まえると、戦況を好転させることに必ずしも貢献するものではない。

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