ロシア・ウクライナ戦争が日本に及ぼす最大影響 欧州の安全保障、米国の防衛資源配分を読み解く

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こうしたロシアの苦戦を受けて、アメリカは、今後同様の侵略を仕掛けられないほどロシアの軍事力を衰退させるという明確な意思を持ってウクライナへの武器援助を続けている。いわば「出血戦略」である。

アメリカのオースティン国防長官は、本年4月、アメリカのウクライナにおける目標を問われた際、「ロシアがウクライナを侵略したような行為を再びできないくらいロシアの力を弱めること」であると答え、このことを認めている。また、新たに発表された国家安全保障戦略においても、「ロシアのウクライナにおける戦争を戦略的失敗とする」ことを掲げている。

NATOの前方兵力の抑制的な増強は、ロシア・ウクライナ戦争を契機としたロシアの短期的脅威に対応するものである一方、戦争で加速したロシアの軍事力の低下や、それを促すためのアメリカによる「出血戦略」と併せて解釈しなければ不十分となる。

NATOとしては、目に見える形で前方兵力を増やし、また増援部隊の即応性を高めることは、ロシアの脅威の最前線に立つ東欧諸国に安心を供与するため必要であった。しかし、それが劇的に増えないのは、ロシアの軍事力の相対的、中長期的な低下という明示的には表現されていない認識が影響しているためだと思われる。

もっとも、今ロシア軍は出血し続けているが、それが消滅するまで出血することを期待するのは現実的ではなく、その底は見えていない。したがって、NATOが示した中間的な前方防衛強化策は、今後の短期的不確実性に備えるため徐々に実施に移され、当面継続する可能性が高い。

一方でその後は、低下したロシアの軍事力に対応するに当たり、独仏等へより大きな役割が求められるような見直しが行われる可能性がある。それまでの間は、当面アメリカ軍の増派が継続することになろう。

アメリカのインド太平洋シフトへの影響

これら欧州の戦力バランスの変化は、アメリカのインド太平洋シフトにどのような影響を及ぼすのか。アメリカ軍の増派は、艦艇や航空機もあるが、主要なものは、増派済み2万人に含まれる2個旅団戦闘団や、増派する1個旅団戦闘団等の地上部隊だろう。

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