乱立大麻店の運命やいかに? 5月タイ総選挙の行方 大麻解禁で一気に街中へ、アジアで唯一の緩い国

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さて、それでは日本人がタイ旅行で大麻をたしなむことに問題はないのか。日本外務省はホームページでこう警告している。

「日本の大麻取締法は、国外において大麻をみだりに、栽培したり、所持したり、譲り受けたり、譲り渡したりした場合などに罰する規定があり、罪に問われる場合があります。そのため、大麻が合法化されている国でも、大麻には決して手を出さないようにしてください」

日本だけではない、韓国やシンガポールの大使館も同様、あるいはそれ以上の強い警告を出している。

カジノ解禁への動きも

アジア諸国では、大麻所持や使用などに厳罰を科す国がほとんどだ。使用、所持、譲渡、密輸など関与の仕方、量にもよるが、中国、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどでは最高刑は死刑、台湾やフィリピンでは終身刑だ。実際に死刑廃止前のフィリピンで死刑判決を受けた日本人もかつていた。韓国は国外での使用も、国内同様に取り締まると強調している。

つまり、アジア太平洋地域でタイだけが真逆の立ち位置を取っているのだ。そこが観光客増や経済振興をめざすタイの狙いでもあるが、緩いタイの大麻環境に浸った外国人がそのままの感覚で出国するとたいへんな目に遭うこともある。

タイの英字紙「バンコクポスト」は2022年8月、タイのコンビニで大麻入りの飲料を飲んでマレーシアに入国しようとしたタイ人2人が検問所の検査で陽性となり3日間拘束されたうえ、各5万バーツの罰金を支払った事件を報じた。大麻の成分は摂取から2日から5日間は消えないと警告する専門家の話も載せている。

タイでジョイントを吸って帰国した日本人が成田空港で麻薬犬にかぎつけられ、別室で取り調べを受けたものの、所持していなかったので放免されたケースもある。

バンコクで売られている大麻はおしゃれなケースに入っていたり、一見それとわからないグミやオイルだったりする。意図的に、あるいはうっかりと帰国のスーツケースに入れて出国し、たいへんな目に遭うケースが相次ぐのではないかと私は危惧している。

タイ経済は21世紀に入り、相次ぐクーデターや政治的混乱、急激な少子高齢化で成長が鈍化し、コロナ禍で深い傷を負った。「中進国の罠」から脱却し、経済を活性化させるとして大麻に続き、これまで禁止されていたカジノを解禁する動きも急だ。選挙後に議論が本格化しそうな雲行きだ。

いずれも、国民の敬愛を一身に集めたプミポン前国王が2016年に亡くなってからの動きだ。「足るを知る経済」を唱え、国民に身の丈にあった暮らし説いた前国王が存命ならどんな言葉をかけただろう。大麻マークの下でついそんな問いが頭に浮かんだ。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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