乱立大麻店の運命やいかに? 5月タイ総選挙の行方 大麻解禁で一気に街中へ、アジアで唯一の緩い国

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解禁は表向き、頭痛や睡眠障害などの治療に資すという「医療上の理由」とされた。推進派は農家の収入源を増やし、観光業にも寄与すると利点を挙げた。

以前にマリファナ関係で有罪となった受刑者3000人が釈放された。政府は大麻草100万株を無料配布したという。一般家庭でも栽培できるようになったのだ。

タイ政府は解禁にあたり、あくまで医療用とし「娯楽での吸引は認めていない」と説明していた。解禁後は、大麻草をかたどった看板や広告、路上販売を禁止と言ったり、公共の場でのジョイントの喫煙などを禁ずる外国人向けのガイドラインを発表したりしている。

省令で解禁、管理法はなし

実態をみれば、こうした政府の「口先介入」は完全に有名無実化している。看板はおおっぴらに掲げられ、店内でジョイントを吸える販売店やカフェはどこでもある。店内で吸わせなくても、少し離れたところに灰皿を置き、そこに誘導する。もちろん治療や症状云々といったことを聞かれることもない。

大麻解禁反対を掲げる民主党の選挙キャンペーン。バンコク中心部をアピシット元首相(マイクを向けられている男性)が候補者とともに練り歩いていた(写真・柴田直治)

そもそもなぜ解禁が実現したのか。前回2019年の総選挙で大麻解禁を掲げる政党「プームジャイタイ(タイ名誉党)」が500議席中51議席を獲得し、連立政権のキャスティングボートを握ったからだ。

党首のアヌティン氏は副首相兼保健相として入閣した。与党連合の要に座り、公約を実現させたのだ。2014年のクーデターで当時のインラック政権を倒した軍を主体する「国民国家の力党」は、名誉党の協力なしでは政権が維持できない。その看板政策に反対を唱えることができるはずもなかった。

利用を細かく規制する大麻管理法案は解禁前の2022年1月に下院に提出されたが、成立前に保健省令で解禁が先行した。管理法をめぐっては、野党だけでなく与党連合の一角、「民主党」が「抜け道が多い」と反対に回った。審議は紛糾し、法案が宙に浮いたまま選挙戦に突入した。解禁はしたものの、法整備が後回しにされたという極めつきの泥縄である。よく言ってカオス、悪く言えば一種の「無法状態」なのだ。

大麻をめぐる環境が変化したことで、子どもを中心に被害例が出ている。大麻入りの菓子を知らずに食べた、興味本位でジョイントを吸って気分が悪くなったなどだ。過剰摂取による入院や高校で生徒が販売していた例などが報告されている。

これほど街のたたずまいを変えた解禁をめぐる論争は、真っ盛りの総選挙でも大きな争点になっているのだろうか。

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