第1に、経済的理由はアンケート結果で最多の回答ではない。結婚しない理由で一番多いのは「結婚の必要性を感じない」であり、第2位は「自分の時間、自由な生活を優先したい」ということであり、ようやくその次の第3位が「経済的理由」である。
子供を持たない、あるいは多くを持たない理由を見ても、確かに「カネがかかるから」という回答が1位になることもある。だが、これはインタビューを受けて「子供を持つのが面倒だ」とか「自分の時間が欲しい」と言うのがはばかられるからである。なぜなら、アンケートもインタビューも「なぜあなたは子供を持たないのか」という非難のニュアンスを含むからである。
さらに、自分をよく見せようと意識していない人々も「カネがかかるから」と答えるのと、「カネをもらったら子供を持つ」とでは、まったく別のことだからである。
この2つは、アンケート調査の経験があれば、誰でも知っていることだ。①アンケートの回答は本音ではない、②アンケートという仮定の回答と現実行動は異なるという、基本中の基本の事実である。
つまり、最も多い回答は経済的要因でないし、回答が経済的要因であったとしても、彼らの実際の行動は異なるのである。そして、「カネをあなたに配る」と言われて「いりません」と断る人はいないし、「ありがたい」と答えるに決まっている。一方、子育てを自分ではしない人間がバラまきに反対すると、子育てをする人々の敵と見なされてしまうので、反対しにくいのである。
所得と結婚率の相関関係の誤解
さらに、このような行動経済学的な議論ではなく、「所得水準と子供の数や所得と結婚率の関係が正である」という実証研究結果も、その多くについてはそのまま日本の現状には当てはめられないし、無理して適用するのは、ほとんどの場合、間違いだと言える。
なぜなら、第1に「所得の高い人ほど結婚している」という所得と結婚率の相関関係は、「所得が増えれば結婚するようになる」という因果関係とはまったく別であるからである。
所得水準が低い人が結婚しないのではなく、社会の中で他人と交流する機会が少ない人(交流したくない人)は、所得水準の高い仕事に就く機会が少なく、それとは独立の現象として、出会いが少ないということがありうる(そして、実際にそうであろう)。
第2に、フランスやハンガリーなどではマネーインセンティブを与えたら子供が増えたという事実があったとしても、日本でも同じことが起こるとは限らない。むしろ、起こると考えることは難しい。
なぜなら、社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎるからである。世界で日本だけが出生率が低いのではなく、中国をはじめ、ほとんどのアジア諸国で低下し続けている。韓国の極端に低い出生率も、つとに有名である。
アジアでは社会のあり方、とくに男女の役割分担のあり方が急激に変わってきている。出生率の低下はその移行期の中で、経済的な理由とこの社会の急激な変化が絡み合っているから起きているのであり、過去にそれが終わっている欧米とは異なる。
また、例えば「アメリカでは出生率が日本より高い」といっても、白人系の出生率はそのほかの人々よりも低いし、欧州の多くの国でもこの現象が存在する。
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