今、植田和男・日本銀行次期総裁(現時点では候補)は武者震いをしていることだろう。
これほど燃える瞬間もない。
自分の人生を賭けてきた専門の金融政策。その場所で、その仕事が歴史上最も困難ともいわれる瞬間に立ち会うことになる。それどころか、その危機と闘う司令塔としての全権が自分に委ねられることになったのだから。
しかも、それは自分が求めて、政治的駆け引きや裏取引などで得た地位ではなく、無欲に世の中を眺めていたときに、まったく思いがけず向こうから転がり込んできたのだから。
これは燃える。
まっとうな政治家、官僚、学者、いやどんな人間でも当然のことだ。危機のときに、請われて、役目を頼まれる。人間として、これほど生きてきた意味を感じる瞬間があるだろうか。植田氏はまさにそのような気持ちのはずだ。
安定感抜群、市場も「ハト派スタンス」を好感したが…
実際、2月24日の衆議院での所信聴取のときは「緊張」と「慎重」になっていたこともあり、かなり控え目で、保守的なやり取りだった。「スタート前でのしくじり」を避け、まずは第1関門を突破した。
また、国会審議に関しては「事前に内容を知らせる『質問通告』は不要と語った」などの武勇伝も伝わっているが、金融政策のプロ中のプロの植田氏にとっては、なんということもないことだろう。
これに対して、市場は植田氏の安定感や、一部の事前予想とは違って極めてハト派、緩和派、つまり「金融緩和を可能な限り続ける」というスタンスに安心し、賞賛した。
だが、市場はまったく見誤っている。
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