植田「日銀次期総裁」が戦う相手は投機筋ではない 日銀が「倒すべき本当の敵」は一体何なのか?

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衆議院の聴取でほっとした市場は(メディアも)、参議院の聴取にはあまり関心がなかったようだ。

だが、2月27日に参議院で植田氏が見せた姿は、「ハト派的なスタンス」や「意見の内容」などは同じであったが、ニュアンスは衆議院でのそれとだいぶ異なっていた。雰囲気も、自信を内に秘めた、いや、それが漏れ出しているようなやり取りであった。

議員にどんなにしつこく責められても、慎重に、抜かりなく、しかし、絶対に譲りたくないところは譲らない。いわば「王者の対応」で、「こちらが市場と経済と政策を支配する側だ」ということを相手にわからせた数時間であった。

「闘う漢(おとこ)、植田和男」になっていたのである。

植田氏は何と闘うのか

ただ、問題は「植田氏はこれから何と闘うか」である。

困難に打ち克つという意味での闘う姿勢、気構えは素晴らしい。しかし「闘い」は「戦い」(=勝ち負けをつける)であって、戦略的に、誰と、どのような順番で戦っていくのか。それが戦略であり、問題なのだ。植田氏の解くべき難問はこれだ。

起死回生の秘策は必要ない。それは植田氏自身も衆議院の所信聴取の質疑の中で「自分の役割は、そういうことではない」とはっきり述べている。彼はわかっているのだ。

では、まず、何と戦うべきか。

もちろん、デフレではない。デフレは過去のものだ。そして、インフレでもない。今の日本のインフレは金融政策でどうこうできるものではない。

景気は、現状の金融政策なら十分に緩和的である。何も必要ない。

「問題は金融市場だろう」。そう言われるかもしれない。なるほど、国債市場で投機筋は国債を売り浴びせ、為替市場では円安を仕掛ける。足元ではアメリカの長期金利が再上昇、ドル高円安への回帰が進んでいることもあり、「日本国債売り」「円売り」を仕掛けやすい状況が戻ってきた。

「植田次期総裁はこの市場と戦うのだ。それ以外にあるのか」――。誰もがそういうだろう。

しかし、それは違うと思う。

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