一方、中央銀行は、自己利益でなく、市場全体、経済全体のために行動する。したがって、何か中央銀行の行動に歪んだ制約がかかっていない限り、中央銀行と市場の投資家の行動が整合的でなければ、それは投資家が間違っているのだ。あるいは悪意の市場を乱し、壊そうとするトレーダー、投機家が投資家のふりをしているだけなのだ。
その結果、中央銀行は市場の正当な大部分と一体化する。外れている投資家がいれば、そちらのほうが間違っており、悪いのだ。市場には「中央銀行には逆らうな」という格言、鉄則がある。
それは、何も中央銀行が支配力を持っているということだけでなく、ほとんど常に正しい、という論理的な帰結から来ているのだ。だから、市場には適切に説明を続け、普通のまっとうな政策を続けていれば「市場に寄り添う」必要などないのである。
よって、問題は「中央銀行が正しい行動をとることを妨げる歪んだ制約とは何か」ということになる。そう、これが戦う相手なのだ。
日銀が戦う「真の相手」とは?
実は、その最大の関門は組織、内部組織である。つまり、日本銀行という存在だ。
総裁、副総裁、そして審議委員。彼らのほとんどは外からやってくる。一生日本銀行で働き続けてきた組織内部の構成員とは、まるで別の生き物である。しかし、市場の悪いやつらと対峙するときには、この組織は一体化して行動しないといけない。これがいちばん難しい。普通の組織的主体が世の中で敗戦するときのほとんどの原因は、それができなかったときである。
しかし、日本銀行はすばらしいことに、この問題が極めて少ないようだ。つまり、現在議論している観点ではすばらしい組織である、ということである。
黒田総裁という偉大な「異物」がトップに着き、「異物」の政策を打ち出したとき、日銀内部は黒田総裁の名実ともに偉大なリーダーシップに従った。「もうやるしかない」と行動し、市場と戦った。そういうすばらしい組織なのである。
だから、最初の2年は非常に「異次元緩和」はうまくいった(異次元緩和の是非とは別に)。それが、ここに来て破綻しかかっている。世の中で絶賛されてきた黒田総裁が総攻撃を受けている。実は、政策当局として市場と戦ううえで現在の最大の障害は、急に黒田総裁を攻撃し始めた人々である。
つまり、手のひらを返したメディア、政治家たちである。外部の人々である。しかし、それでも日銀は一枚岩を保っている。幸い、内部に敵はいない。最高だ。単純に、外敵を一人ずつ倒していく。それが「植田新日銀」がとるべき戦略なのだ。
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