「ChatGPTの生みの親」爆発的人気に透ける葛藤 毀誉褒貶のオープンAIだが、拡大は止まらない

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ただ、今のオープンAIはこの憲章と異なる方向に突き進んでいるようにみえる。

2019年には非営利法人である本体の子会社として、営利企業である「オープンAI LP」を設立。また同年、米マイクロソフトが同社に対する10億ドルの出資と包括的パートナーシップを結ぶことを発表している。

マイクロソフトは2020年9月、新しいAIサービスを開発するためGPT-3の独占的ライセンスを締結。WordやExcelといったオフィス製品を含めた製品群へのAI搭載を加速させていく計画だ。今後数年間で数十億ドルの追加出資を行うことも決まっている。

膨大な計算能力が必要なAIシステムの開発には多くの設備投資が必須で、オープンAIにとってこの提携のうまみは大きい。ただ、同社が資本主義に組み込まれることを批判する声は少なくない。

2018年にオープンAIの理事会を離れたイーロン・マスクは、3月24日のツイッター投稿で「マイクロソフトは投資の一環でオープンAIのコード基盤全体への独占的なアクセス権を獲得した。ChatGPTは完全に(同社のクラウドサービスである)Azureの中に収まっており、いざとなればすべてを手に入れることができる」と警鐘を鳴らした。

安全性に対する懸念

足元では、安全性に対する懸念も表明されている。3月28日には、AIの安全性を研究するFuture of Life Institute(FLI)が、GPT-4よりも強力なAIシステムの開発・運用を6カ月以上停止することを呼びかけ、AIの急速な進化に警鐘を鳴らした。イーロン・マスクや米アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアックら、1000名以上が署名したとされる。

同31日には、イタリアのデータ保護当局がChatGPTの利用の一時禁止を発表。同社がAIの学習に用いるデータ処理が法令に違反していることや、青少年への悪影響などがその理由だ。

こうした動きを受けてか、オープンAIは4月5日に「強力なAIを安全に、広く有益な形で維持することを約束する」などと記した声明を発表している。

ただ、逆風下でも足元の勢いに急ブレーキがかかる様子はない。外部の企業が開発したアプリなどと接続できるChatGPTのAPIが公開されたことで、機能を搭載した製品やサービスは加速度的に増えている。この先にあるのは「全人類への利益」か、巨大企業による「強大な技術の独占」か。行方を注視することが必要だ。

=敬称略=

武山 隼大 東洋経済 記者

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たけやま はやた / Hayata Takeyama

岐阜県出身。東京外国語大学国際社会学部モンゴル語専攻卒。在学中に西モンゴル・ホブド大学に留学。2021年東洋経済新報社に入社し、現在ゲーム・玩具業界を担当。

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