たぬかなさんはユニクロと兼業にしたかったが、雇い主である、CYCLOPS athlete gaming(当時は CYCLOPS OSAKA)からは
「それなりのお金を出すから専業でお願いしたい」
と言われた。
「提示された金額は、田舎者の私から見たら十分な額だったので、専業のプロゲーマーになることにしました」
プロゲーマーのいちばん大きな仕事は、国内外の大会に参加して盛り上げること。ユニフォームを着て活躍して、スポンサーの名前をアピールする。もちろん試合に勝って実績を残さなければならない。
基本給があり、そのうえで大会の成績に応じてボーナスが出た。プロゲーマーのチームに入っても基本給がない会社も多く、基本給があるのは随分ありがたかったという。
業界内の事情にはたびたび振り回された
「個人でガチな大会に参加するので、油断してたら普通に負けます。みんな強いですからね。
2017年にアメリカで開催された『Combo Breaker』という世界大会で3位になりました。小柄なアジア系の女の子が、大柄な黒人選手とかをバンバン倒していくっていう構図が、海外で受けました。地元のメディアに掲載されて、フォロワーも爆増しました。それで、レッドブルさんがスポンサーについてくれました。プロゲーマーとして非常に充実した日々でした」
ただし、プロゲーマーの仕事はゲームをするだけではない。
講演会をする。
スポンサーのイベントに出演する。
定期的に配信をしてファンと交流する。
などの仕事もこなさなければならない。
「先輩女性プロゲーマーの人と、新しくできた格闘ゲームで対戦するっていう仕事がありました。その人、プロって名乗ってる割にゲームは全然下手で。実際対戦してみたら、やっぱり私が勝ったんですけど、それ以降、共演NGにされました。それでその人のこと、すごい嫌いになりましたね。
業界内には、そんな気持ちの悪い人間関係だとか、利権だとかがいろいろあって、たびたび振り回されました。常々『すげえ世界だな』って思っていました」
2019年にはMildomというゲームを中心とした映像配信プラットフォームが登場した。多くのプロゲーマーが配信に参加した。
「当時Mildomで配信をやるとかなりお金が稼げました。ただマイナーなプラットフォームなので、視聴者数はそんなに伸びませんでした。私は配信はあまり好きではなかったのですが『稼げるなら』とはじめました」
その日はバレンタインデーにちなんだ雑談をしていた。視聴者は30人くらいの、ごくごく少ないサークルの会話だった。
その日、たぬかなさんは少し嫌なことがあった。ウーバーイーツの配達員に連絡先を聞かれたのだ。自宅の場所を知っている配達員にナンパされたことに、たぬかなさんは恐怖を覚えた。
その配達員は、たまたま低身長だった。
たぬかなさんは、低身長の男性は好みでなかったので、いつもの毒舌で説明をした。
「165はちっちゃいね。ダメですね。170ないと、正直人権ないんで。170センチない方は『俺って人権ないんだ』って思いながら、生きていってください」
確かに少々キツイ言葉だが、30人しか見ていないチャンネル内での発言だ。しかも発言の前後の言葉は参照せず、この部分だけを切り取って拡散された。メディアによっては、まるで何万人にも向けての発言のように報道するところもあったが、実際にはごく小さいサークル内での会話だ。
少々言葉選びに慎重さが欠けたとはいえ、深夜の居酒屋に行ったらもっとひどい言葉がいくらでも飛び交っているだろう。
現にCYCLOPS athlete gamingの社員も配信に参加しており、その場ではなんの文句も言わなかった。たぬかなさん自身、この言葉が問題になるとは、夢にも思っていなかった。
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