「意識高い系」資本主義が「賃金UP」を抑えている訳 企業が「SDGs」や社会正義に取り組む本当の理由
だが、気候変動対策のような公共の利益のために私財を投じるならば、国に税金を納めればよいではないか。租税回避を徹底して私財を貯めこむ強欲さの一方で、気前よく100億ドルもの寄付金をポンと出すなどというのは、矛盾しているのではないか。普通の感覚であれば、そう思うだろう。
ところが、それが矛盾してはいないのである。ここに「ウォーク資本主義」の恐るべき本質がある。
社会正義がもたらす金権政治
実は、このような公共の利益を重視しているかに見える企業活動は、むしろ、企業の経済的な利益を守り、さらには殖やすための手の込んだ策略なのだ。ローズ教授は、そう主張するのである。
まず、社会的正義に熱心であるという企業のブランド・イメージを打ち出した方が、より儲かる。だから、企業は、熱心に寄付を行っているのである。もっとも、それだけなら、たいして悪い話ではないかのように見える。それどころか、企業の私的利益と公共の利益が一致するならば、それは歓迎すべきことではないかと思われるかもしれない。
しかし、問題は、そこにはとどまらない。
富裕者層が巨額の寄付を行って公共の問題に取り組む姿勢を見せるのは、裏を返せば、民主政治が公共の利益を実現する必要はないというジェスチャーなのである。
そのジェスチャーが意味するのは、公共の利益を実現するのは、一部の富裕者層や権力者であって、民主的に選ばれ、国民に対して説明責任を持つ政府ではないということである。
それは、端的に言えば、民主主義の否定にほかならない。富裕者層による金権政治である。
富裕者層の金権政治は、公共の利益のために私的利益をある程度は犠牲にするが、もちろん、私的利益を大きく損なうような公共への奉仕には決して応じない。富裕者層の金権政治における公共の利益は、富裕者層の権益を維持できる範囲内でしか、実現されないのである。
例えば、「意識高い系」の富裕者層は、気候変動対策の寄付には応じるし、貧困対策にも一定の寄付をするだろう。しかし、国富の25%を1%の富裕者層が専有するような極端な経済的不平等を是正するといった社会正義の実現となると、「意識高い系」の富裕者層は一切触れようとはしない。それどころか、全力で反対するのである。
租税回避に熱心なアマゾンの創業者ベゾス氏が、100億ドルもの寄付を行った理由も、これで分かるだろう。100億ドルなど、億万長者の彼にとっては「はした金」であり、その富と権力を守るためなら、安いものだというわけである。
「意識高い系」富裕者層による「意識高い系」の社会貢献活動は、実は、進歩主義的なのではなく、その反対に、「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物さえも取り上げられる」(聖書マタイ伝)という不平等な社会構造を維持し、富める者の既得権益を守るための極めて狡猾な策略なのである。
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