「意識高い系」資本主義が「賃金UP」を抑えている訳 企業が「SDGs」や社会正義に取り組む本当の理由

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しかも、近年、「ウォーク」は、あまり良くない意味や冷やかしの意味を込めて使われる言葉になっているという。

それは、環境保護、人種的偏見や性差別の撤廃、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー等)の権利、経済的平等といった進歩的なポリティカル・コレクトネスや社会正義に対して、表向きは意識が高いようなふりをしながら、その実、これらとは矛盾する行動をとる「えせ進歩主義者」を非難する言葉として使われるようになっているのだという。

多くの読者は、もうこの時点で、お気づきのことだろう。

そう、「ウォーク」という英語のスラングを、日本語の最近のスラングで翻訳するならば、「意識高い系」になるのである。

人びとが使うスラングは、社会の相貌を映す鏡である。「意識高い系」という言葉が流行っているということは、日本にも「ウォーク資本主義」現象が起きているということにほかならない。

「寄付」のいっぽうで「租税回避」

アメリカやオーストラリアにおける「ウォーク資本主義」の実例については、本書の中で山ほど挙げられているが、その中から一例だけ紹介しておこう。

それは、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏である。

2020年、ベゾス氏は、気候変動対策のために、100億ドルもの寄付を行った。この金額は、アメリカ政府が気候変動対策のために投じた資金とほぼ同程度であるという。

なんと意識の高いことだろうか!

ところが、アマゾンが10年間で納めた税金の総額は、この寄付金額の3分の1程度にすぎなかった。2018年にアマゾンは110億ドルの利益を上げたが、法人税はまったく支払っていなかった。2019年の利益は130億ドルだったが、アマゾンの法人税の実効税率は1.2%にすぎなかった。

もちろん、アマゾンは、違法な脱税を行っていたわけではない。世界各国の租税法の抜け穴を巧みに利用して法人税負担を可能な限り軽減する「租税回避」を行っていたのだ。

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