人は何歳になっても好きな人と結婚して幸せに暮らすことができる──。35歳以上で結婚した「晩婚さん」を訪ね歩く本連載を続けてきた筆者はそう確信している。
ただし、前提はある。若い頃のような勢いはなくなった年代での結婚には、勇気と柔軟性が必要なのだ。自分の人生が、結婚相手という他者とブレンドして想定外のものに変わっても構わない、というオープンな姿勢が予期せぬベストパートナーを引き寄せる。
夫婦ともに「タクシー運転手」というご夫婦
愛知県の酒井美恵さん(仮名、56歳)と誠也さん(仮名、46歳)は夫婦ともにタクシー運転手だ。職場で出会って2020年に結婚し、夜勤での共働きを続けている。
先日、筆者は美恵さんが運転するタクシーに乗った。「お客さんには一笑いをしてもらう」ことをモットーにしているほどサービス精神旺盛な美恵さんがたまたま本連載の読者だったことから意気投合。インタビュー取材にも応じてくれることになった。
ある日のランチタイム。海辺のイタリア料理店の座席で待っていると、ロングスカートでおめかしをした美恵さんが現れた。明るい色のボブカット、メガネの奥の目はつねに優しげな笑いを浮かべている色白丸顔の女性だ。その後ろには、無造作ヘアに無精ひげ、ジーパンとジャージ姿の誠也さんがいる。あいさつの言葉は聞こえないほど小さいし、無表情。やや無愛想に映るが、きっと人見知りなのだろう。
そんな誠也さんをフォローしながら、美恵さんは6年前にタクシー運転手になるまでの経緯を明るい自虐を交えながら語り聞かせてくれた。
高校卒業後、大手自動車部品メーカーに就職したが張り切って働きすぎて激やせして不眠気味に。愛知県内では一流とされる会社を退職せざるをえなくなり、「これからはやりたいことを全部やろう」と割り切った。その後、生花店、フットケア専門店、学校の調理場、介護施設でそれぞれ数年間ずつ勤務。同僚に「いいな」と思う男性がいたこともあるが、一歩引いてしまい、結婚などは考えたこともなかった。なぜだろうか。
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