「英語を読む力」ばかり鍛え続ける日本人の行く末 機械翻訳が進化しても英語学習の意義は高まる

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大学院からアメリカに渡り、気鋭の経済学者として活躍するイェール大学の成田悠輔(ゆうすけ)助教授も、こうした時代に英語を学ぶことの意義について、「NewsPicks」のインタビューで次のように語っています。

「自動翻訳の性能がちょっとやそっと向上しても、英語の言い回しや声色からにじみ出る相手の感情を読み取るとか、リアルタイムの言葉の往復で心と心を糊でがっちりくっつけるみたいな部分はその言語を体に染み込ませた人にしか難しいでしょう。どんなに凄腕の同時通訳者を雇ったとしても通訳を介している時点で失われるものがあるのと同じだと思います」

また、英語を習得する過程で得るものがあるとも指摘しています。

「ノンネイティブが英語を学ぶ過程で、自分の英語がどこまでいっても下手だし、伝わらないし、呆れられるし、聞き取りもできないという現実にぶつかります。ネイティブの中にいると、自分が明らかにコミュニケーション弱者だと痛感させられます。自分を弱い立場に置いて、弱者としての自分に出会う経験って、すごく貴重だと思うんです。

こうした経験をすると、『弱い立場に置かれたときの自分』を強く認識しますし、自分をマイノリティーの立場に置いて相手の文化や価値観に触れることになります。お互いの文化や価値観の違いを認識する技能として、英語の役割はまだまだ残り続けるのではないでしょうか」

このように、むしろ今、そしてこれからこそ、英語を学ぶことの意義が高まっているのではないだろうか。

私が今回、書籍『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』をまとめようと思ったのは、そうした思いからです。

日本の英語教育は依然として「ゴール=入試」

一方で日本の英語教育の現場では、以前から日本人の英語力の低下に対して懸念を共有しており、2020年からは小学校で英語が正式な教科になりました。大学入試においても4技能すべてを使える英語を目指し、改革の舵が切られようとしたのですが、結局外部試験の導入は見送られました。

センター試験に替わって始まった大学入学共通テストではリーディングとリスニングの配点比率が1:1とされたものの、実際にはリスニングの比率を大幅に下げている大学も多く、東大では7:3、京大では3:1と依然「読む」技能に偏っています。

大学の入試問題に詳しい東進ハイスクール講師の安河内(やすこうち)哲也氏によると、問題の約8割が読解・文法・語彙に関するもので、残りの2割ほどが英作文、リスニングは2%、スピーキングは0%。「本当は学生たちもしゃべれるようになりたいし、先生も4技能のすべてを使える英語を教えたい。文科省の学習指導要領もそれを求めている。妨げているのが、現在の大学入試のあり方だ」と警鐘を鳴らしています。

このように、入試をゴールとした減点方式の英語を強いられることで英語嫌いになったり、苦手意識を植え付けられたりしてしまっているのはとても残念な現状です。

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