「英語を読む力」ばかり鍛え続ける日本人の行く末 機械翻訳が進化しても英語学習の意義は高まる
暗い話ばかり続きますが、今度は英語力です。
国際語学教育機関「EFエデュケーション・ファースト」(本部・スイス)の2022年調査によると、英語を母語としない112カ国・地域のうち、日本人の英語力は前年の78位からさらに順位を落とし、80位。これは5段階中4番目となる「低い能力レベル」(61〜87位)に分類されます。
また、日本でTOEICを実施・運営する国際ビジネスコミュニケーション協会の調査によると、中学高校、さらには大学でも英語を勉強したのに、「英語が苦手」と自覚している日本のビジネスパーソンは約7割にのぼります。
かつてはバブル期の日本企業がニューヨークの摩天楼を相次いで買収したこともありましたが、今では「買われる」側です。円安が進めば、日本はさらに「お買い得」になります。
確かに英語は単なる道具にすぎません。けれどその道具すらまともに使えないままだと、「お買い得」な日本でひと稼ぎしようとやって来る人たちと交渉をすることさえままなりません。会社が買われたり合弁で事業をしたりする状況になったとき、上司や同僚が日本語を話せないとか、日本語が通じないお客さんを相手に商売をするといったことが、もっと当たり前の世の中に変わっていくかもしれないのです。
海外旅行でちょっとした日常会話ができる。大半の日本人が英語を学ぶことのメリットや目標はその程度だったかもしれませんが、はたして今後もそのままでよいのでしょうか。
機械翻訳が進化したら英語を学ぶ必要はなくなるのか
近年は機械翻訳の精度が大きく向上しています。海外旅行などでのちょっとした日常会話にはポケトークのようなAI通訳アプリを、さらに仕事や勉強ではグーグル翻訳やDeepL(ディープエル)といったツールを使っている人は今や非常に多いのではないでしょうか。
フェイスブックの親会社であるメタの人工知能(AI)研究部門は、口頭での会話をほぼリアルタイムで翻訳できる音声翻訳システムを開発し、その技術をオープンソースで公開しています。
お互いに違う言語を話していても、このようなシステムによって意思疎通ができるという時代はかなり近いところまで来ているようです。そうなると、これからの未来を生きる子どもたちにとって、英語はもはや苦労して身につける必要もなくなっていくのでしょうか。
第2言語習得の専門家である早稲田大学教育学部英語英文学科の原田哲男教授は、言語にはいくつか機能があるが、そのうち大切なものが2つあると言います。1つは「情報の伝達」。もう1つは「人と人をつなぐため、感情のやりとりを通じて社会生活を円滑にしていく機能」です。
「事実を正確に、時には詳しく伝えるという前者の機能は、機械翻訳に軍配が上がることもあります。しかし、相手の感情をその社会的な背景まで考慮して理解し、それに対して自分の感情をいかに伝えるかまでは、機械翻訳だとまず難しいのではないでしょうか。言語の感情面や社会面、さらには抽象的な思考力まで機械翻訳に頼るのは到底不可能であり、英語を学び、自ら考えるコミュニケーション力はまだまだ必要です。むしろそこが機械翻訳で置き換えられるようになったら、文化は滅んでしまうと言っても過言ではないはずです」
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