特殊詐欺の「共犯者」にされかかった男の深い後悔 友人を助けたつもりが逮捕が待っていた

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Aが逮捕される直前にXと電話で交わした会話の記録がある。

「名義を貸したのは事実ですよ。でも、それは友人であるX君の頼みだったから」「じいさんやばあさんから金をだまし取るようなことをやっていて、その共犯にされたんじゃ、心折れますよ」とまくし立てるAに対し、Xはこう返答するのが精いっぱいだった。「全部、自分の判断ミスです」。

説明しても信用されない

Aは逮捕後、Xが現役の暴力団組員だったことを警察から知らされた。「居住用に使う」としていた部屋に、2人のかけ子が毎朝出勤し、夕方には退勤している姿が、警察の隠しカメラで撮られた画像にはっきりと写っていた。

警察が作成した実行犯らの「出勤記録」。居住はしておらず「出退勤」している(記者撮影)

Aは特殊詐欺を「いっさい知らなかった」と話す。Xへの親切心があだになってしまったという。

逮捕されたAとBが頭を抱えたのは、自分たちは特殊詐欺には関わっていないとどんなに説明しても警察から信用されなかったことだ。詐欺グループの連中に「詐欺とは関係ない」と真相を供述してほしかったが、Xは逃亡したままで、捕まったかけ子らは弁護士の指示で「黙秘」を貫いていた。

捜査のターゲットは、明らかに暴力団組員のXだった。XがAに、「見張られている」などと主張していたのも、捜査を警戒したためだと推測できる。

警察は詐欺で得られた金が暴力団に流れているとみて、首謀者であるXを捕えようと躍起になっていた。その配下で暴力団組員とみられる男も逃亡していた。それゆえ警察は、Xと直接話をしていたAに疑念の目を向けたとみられる。

Aにかけられた疑いを晴らしたい妻は「私がXを呼び出すから、そこを捕まえて」と警察に持ちかけた。だが警察は「相手は暴力団。万が一、拳銃を所持していて、あなたを人質に取ったりしたら、取り返しがつかない」と、取り合わなかった。 

今年2月、AとBの特殊詐欺についての不起訴が決まった。名義貸しをした賃借権詐欺については1件目が昨年12月、2件目が今年2月に起訴されている。

3月下旬、東京地方裁判所で開かれた公判。Aは賃借権詐欺についての起訴事実を認めたうえで、次のように述べた。「Xを当時は友人だと思っていたが、自分だけ逃げるような人間とは付き合うべきではなかった。今は後悔と反省しかありません」。

賃借権詐欺の判決は今年5月の予定だ。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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