仏のデモに見る年金改革がとてつもなく難しい訳 過去の社会契約が実行不能なのはもはや明らか

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これが最も顕著にあらわれるのは、昔働いていた人の年金を今働いている人が支払う賦課方式のシステムだ。老齢人口が膨らむ一方で生産年齢の人口が縮小したら、働いている人々にのしかかる経済的重荷は甚大になる。

ここでの問題は、寿命が延びすぎたことではなく、人々が十分なお金を貯めてこなかったこと、そして早く退職しすぎることだ。

同時に、高齢化社会は少子化の問題も抱えているため、若い世代にもっと投資をする必要もある。それによって若い人々が十分生産的になれば、増大する老齢人口をなんとか支えられるかもしれない。

どちらにしても、重要なのは貯蓄と投資の増大だということだ。

リスクを個人に転換することで対応できるか?

大半の先進国は今、リスクを個人に転換することで高齢化の財政的圧力に対処しようとしている。

確定給付型として知られる伝統的な年金においては、雇用主が従業員に対して、個々の給料や勤労年数に応じて決まった額の年金(確定給付)を与えることを約束する。

従業員の拠出金が年金のコストをカバーできないかもしれないというリスクは、雇用主が負う。こうした形の年金は今、確定拠出型の年金に取ってかわられつつある。

企業型の確定拠出年金においては、雇用主は一定の金額の拠出(確定拠出)を行い、それを用いて加入者である従業員が運用を行う。雇用主は、そうした運用がどれだけうまくいくのか、それが労働者の老後を賄うのに十分であるかどうかには関与しない。

そうしたリスクを管理する金融上のスキルをもつ人はきわめて少ないにもかかわらず、確定拠出型の年金は今、広く普及しつつある。

一方開発途上国では、年金が存在するのはフォーマルセクターだけで、しかも多くの場合、フォーマルセクターは経済のほんの一部しか占めていない。高齢者を介護するコストは、傾向的にまず個々の家庭が負担し、それより低い割合ではあるがボランティア組織が負担している。

問題はそうした開発途上国において、年金制度が広まるより速いスピードで社会が高齢化しつつあることだ。

より多くの労働力が年金制度に加入しないかぎり、家庭にかかる負担や、政府資金によるセーフティーネット型の年金制度にかかる負担は過剰になってしまう。

開発途上国はそれゆえ、フォーマルセクターの仕事を広げることや、強制加入年金の普及、定年についての現実的な設定などに優先的に取り組まなくてはならない。

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