このように、「ケア責任のある人」という定義づけは実務上は非常に難しい。ワーキングマザーがひとくくりにされる環境だからこそ、その半人前扱いを克服したいと思うわけですが、そのカテゴリー化される状況自体が問題なのかもしれない。
究極的には、特定の属性で切り分けずとも、本当の意味での多様性、つまり「個」としての価値を尊重できる社会や組織が理想とは感じます。
希望の萌芽
とはいえ、「ケア責任のある人」を引き上げていくという視点は、ダイバーシティを進めるうえの理念としては有効だと思います。もしワーキングマザーなど、特定のカテゴリーの人が活躍できない阻害要因があるのであれば、それを取り払っていくことは必要です。
一つひとつ、問題を解決する萌芽はでてきていると思います。『「育休世代」のジレンマ』を出版してから、以下のような動きはかなり進展したと感じています。
結局、ケア責任のある人が圧倒的に不利になるような社会の仕組みを変えるには、大半の人が定時に帰れる社会にすること、長時間労働をもたらしている評価制度を変えること。それに尽きるのではないかと思います。
数値目標の是非については追って書きます。弊害もあります。でも、「育児中の社員も含めてしっかり上がっていってもらわないと目標が達成できない」という状況になれば、阻害要因が改善される余地もあると思います。
目標を掲げていない企業も、コア人材になりうる女性たちの出産が増えるに従い、問題意識は持ちはじめると思います。育児中の社員が、自身が発揮している価値や現場で何が起こっているのかを発信していくことは引き続き有効だと思います。経営側にとってその声を聞くことが決して企業利益と反しないことも、この連載で追って書いていきます。
これまで、日本の労働市場はあまりにも流動性がなく、「勤務できる時間が短い=付加価値が低い」仕事しかないという状況でした。その中で、「今の会社に満足できないのなら、転職すればいい」と言うのは、無責任なようではばかられました。
でも最近は、転職サービスや人材派遣業界の中から、スキルや専門性を生かして短い時間でも働ける枠組みが徐々に出てきました。今いる会社に変化の兆しがなく、他に活躍できる場所があるのなら、上がれる世界で上がるというのも1つの方法です。あまりに不公平な戦いで消耗してしまっては、社会の損失です。
この1年くらいで急速に人手不足感は高まっています。就職活動も今年は売り手市場のようです。優秀な人材が流出したり、採れなかったりすることで、企業も変わらざるをえないと危機感を覚えてくれるかもしれません。
次回以降は、日本のカイシャがやりがちなダイバーシティ施策の失敗パターンに触れ、企業がどうしたら優秀な人材を逃さずに済むのか、解きほぐしていきたいと思います。
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