シングル母も共働きも陥る「時間貧困」問題 子どものことが見えなくなる
静岡県内にある通販企業の広報部員としてフルタイムで働く女性(36)。家庭でも、同様に「フルタイム」で働いている。
会社員の夫(38)と、長男(8)、長女(3)と共に、横浜市内で暮らす。毎日、朝7時に子どもたちと一緒に家を出て、女性は保育園経由で横浜駅へ。新幹線で会社に向かうと定時までの8時間半、昼食をとる間も惜しんで仕事に励む。
終業後は即退社して帰路に就くが、保育園と民間学童を経由して帰宅するのは、午後8時近い。洗濯機をまわし、「おなかすいた!」と訴える子どもたちをなだめすかしながら夕食を作り、食べさせて、長男に宿題をさせつつ長女の連絡帳に目を通し、風呂を沸かして子どもたちとともに入浴を済ませる。すべてを終えて女性が床につくのは、毎晩、0時を回ってからだ。
家庭責任を一人で負う
夫は帰りが遅く、平日の家事や子育ての分担は期待できない。女性は言う。
「よく、家族で談笑する時間が大事だといいますが、それは時間的な余裕があってのこと。共働きのわが家には、そんな余裕はありません」
帰宅後の子どもたちは相当な「甘えモード」だが、家事に追われてゆっくり相手をすることはできない。夕食を囲む間も、「食べおわったら、あれをしてこれをして」と頭の中は家事の段取りでいっぱい。子どもたちの話は耳に入ってこないという。
社会学者の水無田気流さんは著書『シングルマザーの貧困』(光文社新書)で、「実質的に自由に使える時間が乏しい」状態を「時間貧困」と名付け、「家庭責任と家計責任を双肩に負うシングルマザーの多くが『時間貧困』に陥っている」と指摘した。