シングル母も共働きも陥る「時間貧困」問題 子どものことが見えなくなる
「大事な会議のある日の朝、息子が不調を訴えたが、聞こえなかったことにして保育園に預けてしまった」
と苦い思い出を語ってくれたのは、3歳の男児を育てる公務員の女性(32)だ。
長女(10)と長男(8)を育てながら契約社員として出版社に勤める女性(44)は、夫の単身赴任で一気に「時間貧困」に陥った。これまでは夫がしてくれていた分の家事も、夫が引き受けてくれていた子どもたちの相手役も、すべて女性が担わなければならない。ある日、マンションの管理人にこう言われたという。
「娘さんが元気がなかったから声をかけたところ、『学校で男子にからかわれている』と涙ながらに話していた」
ショックだった。いつしか、子どもたちのことが見えなくなっていた。
多様性を認める社会
どうすれば、女性たちの「時間貧困」を解消できるのか。育休や時短、男性の育休取得率向上についてはさんざん議論されてきた。しかし、母親たちの声は、それだけでは問題が解決されないことを示している。
「生き方や働き方の多様性を認める社会になってほしい」
と話すのは、12歳と7歳の女児を育てながら、年7回の海外出張をこなすメーカー勤務の女性(52)だ。
例えば急な学校行事。すぐには対応できない母親もいることを理解してほしい。家事を外注したり子育て支援のサービスを利用したりしたときに、後ろめたいと感じなくて済む環境が整えば、きっともっと、子どもと向き合える。
教育・心理カウンセラーの富田富士也さんは言う。
「家庭は子どもにとって、何の制約もなく素の自分でいられる場所であるべき。それをつくるには、『申し訳ない』と思う気持ちや弱音を、子どもにちゃんと伝えることです」