この連載では追って、経営学的にどのような効果があるとされているかについても紹介していきたいと思いますが、3大戦略のうち、このダイバーシティ戦略はある程度有効そうです。
ただし、3つの戦略どれを取るにせよ、「ケア責任のある人を引き上げる」という世界を達成していくうえでは、陥りやすいワナがあることにも触れておきましょう。それは「カテゴリー内の対立問題」です。
ケア責任のある人同士の対立問題
私は育休復帰後1カ月くらいで、育児中の社員というカテゴリー全体を引き上げるのは非常に難しいということを感じました。
なぜか。「私は育児中ですが、ほかの社員とは違うこんな価値を発揮できます。だから育児中の社員をちゃんと登用してください」。もしそう言うと、同じ社内のワーキングマザーから、何らかの厳しい突っ込みが入ることが想定されました。私の場合、絶対に言われるだろうなと思ったのが、「実家が近いからできるんでしょ? あの恵まれた人と一緒にしないでほしい」でした。
その気持ちもわかります。わが家の場合、保育園の送り迎えの大半は自分と夫で行っています。無認可保育園で、お弁当も作っています。でも、夕飯はかなり実家に頼っています。出張などのときに、子どもには実家に泊まってもらうこともあります。熱を出したときなどに「いざとなれば実家に頼める」という心の支えがあるかどうかも、心理的にはまったく違うと思います。
だから私は、自分の成果や価値を人に伝えるとき、「私の場合は、親が近くに住んでいて、とても恵まれた環境にいるのでできるという面があるのですが」「幸い子どももあまり熱を出さずに済んでいますが、そういう人ばかりではありません」という注釈を必ずつけていました。
「ケア責任のある人」というカテゴリー全体の二流扱いを克服したいので、自分に恵まれた面があることを隠して、さも能力だけで自分が勝ち上がったかのような卑怯な振る舞いはしたくない。また、ワーママ同士の細かな環境の差違によって内部で対立してしまわないように、こうした注釈をつける。
ところが、そうやっていちいち細々説明していると、自分はまるで「ケア責任がない」かのような言い方になっていたりします。そうすると「ケア責任のある人」というカテゴリーの代表にはなれない、という矛盾が出てくる。
本を出した後、「同じ社内で、ワーママ同士の意識にばらつきが大きすぎる」という相談もよく受けました。仕事に対する意識も、それを実現する環境もバラバラ。ちょっと前向きなことを言うと「ひとくくりにしないでください」「そういうことできる人ばかりじゃないのです」と仲間内から言われてしまう。
なんとなく、物言えば唇寒しという空気をビシバシ感じるわけです。おとなしく、遠慮して謙遜して、周囲にひたすら感謝して、粛々と業務をこなして、変に行動を起こさないほうが無難。そうやって、ケア責任のある人たちがひとまとまりになって声を上げるということは、実現しづらくなっていきます。
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