アメリカが「2度目の南北戦争」前夜である理由 内戦リスクを高める「アノクラシー・ゾーン」

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「ジェームズ・マディソンとアレクサンダー・ハミルトンは、アメリカの民主主義が危殆に瀕するとき、それは派閥の手によって引き起こされるだろうと考えていた。共和国にとって最も危険なのは外敵ではない。支配に執着した国内の敵である。そのように『ザ・フェデラリスト・ペーパーズ』には記されている。」(185頁)

と筆者ウォルターは書いている。

実際にはフェデラリストたちは共和国にとって最も危険なのは「外敵」および「外敵と結んだ州政府」だと考えていたが、現在のアメリカにとって他国からの軍事侵攻も大国による代理戦争の戦場になる可能性もないのだから、内戦の最大のリスク・ファクターが「支配に執着した国内の敵」だというウォルターの見立ては正しい。

「失うことの痛み」が政治的暴力を駆り立てる

そして、ウォルターによれば、アメリカで起きるかもしれない内戦のかたちはフェデラリストの時代とはかなり違ったものになる。

「18世紀アメリカの指導者は、自らの脅威となる派閥が階級ではなく、民族的アイデンティティーになることまでは予期していなかった。1789年当時にあって、少なくとも連邦レベルでの有権者は全員白人男性だった。今日、投票行動を予期する主要因は人種である。黒人、ラテン系アメリカ人、アジア系の3分の2以上は民主党を支持し、白人の6割は共和党に票を投じる。」(186頁)

アイデンティティー・ポリティクスとは、ある政治家を支持するときの理由が、その政治家の掲げる政策の適否ではなく、自分と同じ「部族」に帰属しているかどうかを基準にする政治的行動のことを言う。ドナルド・トランプはアイデンティティー・ポリティクスの典型である。

「彼はアイデンティティーによる政治を堂々と自分の綱領に取り入れた。彼は黒人はみな貧しくて暴力的と決めつけ、メキシコ人はみな犯罪者という。性的醜聞にもかかわらず、キリスト教の価値を語る。」(190頁)

トランプは国民をその政治的意見によってではなく、帰属集団によって分断し、自分たちの「部族」以外のすべての部族は消えてなくなっても構わないという過激な主張をなして、圧倒的なポピュラリティーを獲得した。

ウォルターによれば、こういう過激な主張が出てくるのは、その集団が、「格下げ」を感じているからである。内戦についての統計的事実としてウォルターは次のことを挙げている。

内戦を始める集団は一般に自分たちは政治的決定プロセスから排除されていると感じている。でも、「最も強力な決定要因は、その集団の経てきた政治的地位の来歴上の特質にある。すなわち、それまで権力の上位にあった人々が、落ちこぼれてゆくとき、実体的暴力に走る傾向は一挙に高まるということである。政治学者は、この現象を『格下げ』と呼ぶ。」(97頁)

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